本稿の目的:カーボンプライシングという言葉が何を指すのかを整理し、日本で動いている制度・これから始まる制度の時間軸と、自社のコストにどう波及するかの見極め方をまとめます。
結論:カーボンプライシングは炭素税や排出量取引など複数の仕組みの総称です。国の制度としては2012年の地球温暖化対策税から導入が進み、自治体では東京都が2010年、埼玉県が2011年に排出量取引制度を導入しています。2026年度には排出量取引制度が本格導入され、2028年度・2033年度にもそれぞれ異なる制度・措置が予定されています。
見落としがちなリスク:自社が制度の直接対象でなくても、電気やエネルギーの価格を通じて影響を受ける可能性があります。「対象外だから関係ない」で止めると、コストが動き始めてから対応することになります。
「カーボンプライシング」は、CO2の排出に値段をつける仕組みの総称です。炭素税、排出量取引、クレジットの売買など、性質の違う複数の制度がこの言葉の下に含まれているため、ニュースで見かけても自社に何が起きるのかが分かりにくくなっています。
結論から言えば、国の制度としては2012年から炭素に価格がついており、2026年度には排出量取引制度が本格導入され、2028年度・2033年度にもそれぞれ異なる制度・措置が予定されています。本稿では、制度の全体像・日本での時間軸・自社への波及経路の3点を、官公庁の一次資料をもとに整理します。
環境省は、カーボンプライシングを「排出されるCO2(二酸化炭素:カーボン)に価格付け(プライシング)する温暖化対策の仕組み」と説明しています(環境省「カーボンプライシング(炭素への価格付け)の全体像」参考資料2)。資源エネルギー庁も「CO2に価格をつけ、それによって排出者の行動を変化させるために導入する政策手法」と定義しています(2023年5月15日公開の解説記事)。
主要な手法に共通するのは、排出に金銭的なコストを持たせることで排出削減を促すという考え方です。排出の少ない方法を選ぶ経済的な動機を与えることを目指す仕組み、と言い換えられます。なお資源エネルギー庁の整理では、エネルギーにかけられる諸税や法律による規制もカーボンプライシングに含まれるとされています。
環境省の整理では、カーボンプライシングは次の階層に分かれます。
最後のインターナル・カーボンプライシングだけは政府の制度ではなく、企業が自主的に設定するものです。設備投資の比較検討にCO2のコストを織り込むために使われます。
「これから始まるもの」という印象を持たれることが多いのですが、国の炭素税は2012年に始まっています。自治体ではさらに早く、東京都が2010年、埼玉県が2011年に排出量取引制度を導入しました(環境省・前掲資料の導入年表)。
地球温暖化対策のための税(地球温暖化対策税)は、石油・天然ガス・石炭といったすべての化石燃料の利用に対し、CO2排出量に応じて課税する仕組みです。
税率はCO2排出量1トン当たり289円で、2012年10月1日から段階的に施行され、2016年4月1日に当初予定されていた最終税率への引上げが完了しています(環境省「地球温暖化対策のための税の概要」)。この税は石油石炭税に上乗せする形で課されます。
このほか、2013年にJ-クレジット制度とJCM、2018年に非化石価値取引が始まっています(環境省・前掲資料の導入年表)。
2023年2月に閣議決定された「GX実現に向けた基本方針」で、成長志向型カーボンプライシング構想が打ち出されました。資源エネルギー庁は、規制と先行投資支援を組み合わせることで、企業などがGXに積極的に取り組む土壌をつくる仕組みが示されたと説明しています。GX推進機構が公表している導入時期は次のとおりです。
| 時期 | 制度 | 負担する主体 |
|---|---|---|
| 2026年度 | 排出量取引制度(GX-ETS)の本格導入 | 排出量が基準以上の事業者 |
| 2028年度 | 化石燃料賦課金 | 化石燃料の輸入事業者等 |
| 2033年度 | 排出枠のオークション(有償) | 発電事業者 |
※出典:GX推進機構「排出量取引制度・化石燃料賦課金」(2026年8月時点)
GX-ETSは、対象事業者の排出量に排出枠の取引を組み合わせる制度です。対象事業者の判定は、CO2の直接排出量(事業者単位)の直近3年度平均が10万トン以上かどうかで行われ、業種や企業規模は判定基準になっていません。2026年度については、経済産業省の告示で参考上限取引価格4,300円、調整基準取引価格1,700円(いずれもCO2 1トン当たり)が示されています。
GX-ETSの対象基準やスケジュール、対象外の企業に取引先経由で影響が及ぶ経路を詳しく確認したい場合は、以下の記事で個別に解説しています。
GX-ETS(排出量取引制度)とは?対象企業の基準と、対象外でも波及する理由
なお、化石燃料賦課金の単価や電気料金への影響額は、本稿の執筆時点(2026年8月)では決まっていません。
国の制度と並行して、自治体にも独自の排出量取引制度があります。埼玉県の目標設定型排出量取引制度は、原油換算したエネルギー使用量が3か年度連続で1,500kL以上となる事業所を対象とするもので、2025年度から第4削減計画期間に入りました。
| 項目 | 第4削減計画期間(2025〜2029年度) |
|---|---|
| 対象 | 原油換算エネルギー使用量が3か年度連続で1,500kL以上の事業所 |
| 目標削減率 | 業務ビル等 50%/工場等 48%(基準排出量比) |
| 基準排出量 | 原則として2002〜2007年度の任意の連続する3か年度の平均 |
| 緩和措置 | 中小企業が設置する大規模事業所は4%緩和(要申請・重複適用不可) |
※出典:埼玉県「第4削減計画期間の目標設定型排出量取引制度 適用事項について」(説明会資料・2024年11月29日)ほか
第3削減計画期間の目標削減率は22%・20%でしたが、第4削減計画期間では50%・48%になりました。第4削減計画期間からは、排出量の算定に使う電力の排出係数が固定係数から実排出係数へ変更されています。県は、第4期の目標削減率のうち16%を「再エネ利用等による削減相当分」と想定しています。
実務上重要なのは、再エネ電気の取扱いが第4削減計画期間から変更された点です。事業所内で発電して自家消費した再エネ電気は、電気の排出係数をゼロとして算定されます。オフサイトPPAや再エネの託送による調達も同様の扱いです。県の算定例では、再エネ電気を1,000千kWh自家消費した場合の排出量は0トンとして示されています。
加えて、超過削減量をクレジットとして発行する際の算定方法も変更され、排出係数の改善や証書の利用による削減分は超過削減量に含めない形になりました。クレジットの発行を見込む場合は、この算定ルールを踏まえて計画を立てる必要があります。
「うちは対象になるのか」を考えるとき、経路を2つに分けると整理しやすくなります。
制度の直接対象でない企業でも、電気・燃料の価格を通じた間接的な影響を受ける可能性があります。制度の対象かどうかを確認したうえで、対象外であっても、エネルギーコストの構造を把握しておく意味はここにあります。
なお、カーボンプライシングとは別の制度として、電気料金には再生可能エネルギー発電促進賦課金も含まれます。電気料金の内訳のどこに何が乗っているのかを確認したい場合は、その仕組みを解説した以下の記事もご参照ください。
再エネ賦課金とは?単価の決まり方と、電気料金明細での確認方法
制度への対応というと環境価値の調達(証書やクレジットの購入)から検討されることがありますが、恒電社では、外から環境価値を買う前に、まず使う電気と購入する電気を減らすことを提案の出発点にしています。
順番に意味があるのは、省エネや自家消費が、条件に応じて購入する電力量とCO2排出量の双方を減らせる可能性があるためです。一方、外部からの再エネ調達は購入電力量そのものを減らすものではなく、証書の活用は主として環境価値を付加・調整する手段です。なお埼玉県の制度では、超過削減量の算定において排出係数の改善や証書利用による削減分が除外される点にも注意が必要です。
自家消費型太陽光でどの程度の電気料金削減が見込めるのか、計算の考え方を確認したい場合はこちらで解説しています。
自家消費型太陽光発電を導入した場合、実際にどれくらい電気代を削減できるのか?
実際に電気代対策と脱炭素の両方を目的に導入した企業がどう判断したのかは、埼玉県内の精密加工製造業の事例で確認できます。
【導入事例】埼玉県の精密加工製造業|工場の“高品質と電気代と脱炭素”の均衡を維持する裏側
カーボンプライシングは炭素に価格をつける仕組みの総称で、炭素税はその一つです。一般に、炭素税は税率を定める方式、排出量取引は排出枠を設定し、その取引を通じて価格が形成される方式とされます。日本では両方の性質を持つ制度が並行して動いています。
国のGX-ETSは直接排出量が直近3年度平均で10万トン以上の事業者が対象で、業種や企業規模そのものは判定基準になっていません。埼玉県の制度は原油換算エネルギー使用量が3か年度連続で1,500kL以上の事業所が対象で、中小企業が設置する大規模事業所には目標削減率の緩和措置(要申請)があります。ただし、燃料や電気の価格を通じた間接的な影響は、事業規模にかかわらず受ける可能性があります。
埼玉県の目標設定型排出量取引制度では、事業所内で発電して自家消費した再エネ電気は排出係数をゼロとして算定されます。一方、国のGX-ETSで対象事業者を判定する際に見られるのはCO2の直接排出量であり、電気の使用に伴う排出はこの判定には含まれません。制度ごとに何を測っているかが異なるため、自社に関係する制度を先に特定してから対策を組み立てることをおすすめします。
制度の全体像は整理できても、「自社の使用量ではどの制度に該当するのか」「省エネと自家消費のどちらから着手すべきか」で止まってしまうことは少なくありません。恒電社では、電気の使い方の現状整理から、自家消費型太陽光発電の設計・施工までをご相談いただけます。制度への対応を検討し始めた段階でも構いませんので、お気軽にご相談ください。