本稿の目的:非化石証書の仕組み・種類・調達方法・価格の現状を、よくいただく質問に答える対話形式で、初めての方にも分かるように解説します。
結論:非化石証書とは、再生可能エネルギーや原子力といった「非化石電源」でつくられた電気が持つ環境価値を、電気そのものの価値と切り離して取引できるようにした証書です。企業は、再エネ指定のある証書を必要量確保し、利用する制度等の要件を満たすことで、「実質再エネ」の表示や排出量算定などに活用できます。
見落としがちなリスク:恒電社の考える脱炭素の4段階では、証書の購入は「第4段階(最後の調整弁)」です。仕組みを知らないまま証書だけに頼ると、国際ルールの見直しや価格変動の影響を受けやすくなります。
「非化石証書」は、企業の脱炭素の文脈で必ず登場する言葉ですが、「電気と価値を切り離す」という考え方が初めての方には分かりにくいところです。本記事では、お客様からよくいただく質問(――)に答えていく対話形式で、非化石証書の基本を整理します。
先にお伝えしたいのは、証書の位置づけです。恒電社では、脱炭素への取り組みを「外から環境価値を買う前に、まず使う電気と購入する電気を減らす」という4段階の順序で考えることをおすすめしており、非化石証書などの環境価値の購入は、省エネ・自家消費・外部からの再エネ調達を検討したあとに残る分を補う「第4段階(最後の調整弁)」と位置づけています。
――そもそも「非化石証書」とは、何を取引する仕組みなのでしょうか?
ひとことで言えば、「電気としての価値」と「環境としての価値」を切り離し、環境価値のほうだけを証書にして取引する仕組みです。
コンセントから出てくる電気は、火力発電でつくられたものも、太陽光や原子力でつくられたものも、電気としてはまったく同じです。パソコンを充電するのも、照明をつけるのも、どの電気でも変わりません。
ただし、再生可能エネルギーや原子力といった「非化石電源」でつくられた電気には、化石燃料由来のCO2排出を伴わないものとして扱われる環境面の価値があります。この価値だけを電気から切り離して証書化し、売買できるようにしたのが非化石証書です。
――「化石由来」と「非化石」の電源は、どう分かれるのですか?
石炭・石油・LNG(液化天然ガス)などの化石燃料を燃やして発電するのが「化石由来」の電源です。これに対して、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスといった再生可能エネルギーと、原子力が「非化石」の電源にあたります。
ここでよく誤解されるのですが、非化石=再エネではありません。非化石電源には原子力も含まれるため、「非化石証書を買えばすべて再エネの主張に使える」わけではないという点は、最初に押さえておきたいポイントです(詳しくは後述の「種類」で説明します)。
――なぜ「再エネ証書」ではなく「非化石証書」という名前なのでしょうか?
非化石証書が、日本のエネルギー政策における非化石エネルギー利用の拡大や、次に説明する高度化法への対応と深く関係する制度だからです。
――高度化法とは、どのような法律ですか?
正式名称は「エネルギー供給構造高度化法」で、エネルギーを供給する事業者に、非化石エネルギーの利用拡大などを求める法律です。電気の分野では、年間の販売電力量が5億kWhを超える小売電気事業者に対して、販売する電気に占める非化石電源の比率について目標の達成が求められており、目標水準は段階的に引き上げられてきました。
小売電気事業者は、対象となる非化石証書を使用することで、この比率に計上できます。つまり一定規模以上の小売電気事業者には高度化法上の目標があるため、制度対応に伴う証書需要が生じる構造になっています。企業(需要家)が証書を検討するときも、この「制度上の需要が存在する市場だ」という構造を知っておくと、価格の動きを理解しやすくなります。
――企業が非化石証書を買うと、何ができるのですか?
電力会社から購入している電気はそのままに、再エネ指定のある証書を使用電力量に対応させ、適用する算定・表示ルールの要件を満たすことで、「実質的に再エネ由来」といった整理ができるようになります。温室効果ガス排出量の算定・開示(スコープ2)や、取引先への説明、RE100などのイニシアチブへの対応で活用されています。
ただし、どの証書がどの用途に使えるかは、証書の種類と、利用する制度・イニシアチブ側の要件によって決まります。ここが次のポイントです。
――非化石証書には、どんな種類があるのですか?
大きく3種類に分かれます。どの電源に由来するかで、使い道と買い方が変わります。
FIT(固定価格買取制度)の認定を受けた太陽光・風力などの電源に由来する証書です。FIT電源は再エネ賦課金の仕組みで支えられている電源で、その環境価値は再エネ価値取引市場のオークション(入札)を通じて証書として販売されます。再エネ由来であることが明確な証書です。
FITの適用を受けていない再エネ電源——大型水力や、FITの買取期間を終えた卒FIT電源など——に由来する証書です。再エネ由来の証書ですが、表示・報告に使えるかどうかは、トラッキングを含む利用先の制度要件の確認が必要です。
原子力など、再エネ以外の非化石電源を含む証書です。高度化法上の非化石価値は持ちますが、「再エネを使っている」という主張には使えません。用途がはっきり分かれるため、購入時には「再エネ指定」の有無を必ず確認する必要があります。
※証書には発電所の所在地や電源の種類などの情報を付与する「トラッキング」という仕組みがあり、RE100のような国際イニシアチブで活用する場合はトラッキング付きであることなどの要件があります。利用予定の制度側の最新要件をご確認ください。
――実際に買いたい場合は、どうやって調達するのですか?
大きく2つの方法があります。
――証書の価格は、どのように動いているのですか?
JEPXのオークション実績を見ると、価格の動きは証書の区分や指標によって分かれています。
業界分析によると、FIT非化石証書の約定最高価格は、2023年8月の0.4円/kWhから、2025年5月のオークションでは4.00円/kWhまで上昇したと報告されています。ただしこれは市場で最も高く取引された価格で、実勢に近い約定加重平均価格で見ると、2025年5月に0.65〜0.67円/kWhの過去最高値をつけたあと、2026年5月には0.44円/kWhへ低下した、という分析が報告されています。一方、同じ2026年5月のオークションでは、非FIT証書(再エネ指定あり・なし双方)が上限価格の1.30円/kWhで全量約定したことも報告されており、少なくともこのオークションでは買い需要が強かったことがうかがえます。
中長期的には、制度対応の需要増と供給の伸び悩みから需給がひっ迫し、価格が上昇していく可能性を指摘する業界分析もあります。「証書は安く手に入るもの」という前提を置かずに、価格が変動する市場商品として計画に織り込むことをおすすめします。
――企業は、非化石証書とどう付き合っていくのがよいのでしょうか?
冒頭でお伝えした4段階の順序に戻ります。証書の購入は、自社で発電設備を設置せずに環境価値を調達でき、設備導入と比べて調達量を調整しやすい手段です(ただし、購入経路や市場の供給量などの制約はあります)。ただし、取引ルールと市場価格という、自社ではコントロールできない要素の上に成り立つ仕組みでもあります。国際的な算定ルール(GHGプロトコル)の改定協議が進んでいることもあり、証書だけに頼った脱炭素対応は、将来の見直しリスクを抱えます。
だからこそ、まず省エネで使う電気を減らし、自社の屋根・敷地の自家消費型太陽光で購入する電気を減らし、足りない分を外部からの再エネ調達で補い、それでも残る部分を証書で埋める——この順序が合理的です。自家消費型太陽光の実例は武州製氷株式会社様の導入事例で、投資回収の考え方は投資回収年数の試算方法のFAQで紹介しています。
恒電社は、自家消費型太陽光発電のEPC(設計・調達・施工)・O&M、省エネのご提案、導入に伴う申請・補助金対応を行っています。非化石証書をはじめとする環境価値の活用については、要点を整理したうえで専門のパートナーへおつなぎします。「まず何から減らすか」の整理からでも、お気軽にご相談ください。