判断の要点
太陽光パネルの一般的な最適角度は、南向き・傾斜角30度前後が目安とされています。ただしこれは設置地域によって変わる理論値です。NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の年間月別日射量データベース「MONSOLA-11」(統計期間1981〜2009年)には、真南に向けたときに年間の日射量が最大になる角度が年間最適傾斜角として収録されており、恒電社の主要商圏である埼玉県(さいたま地点)は33.6度、東京は32.8度です(データの入手先はNEDO「日射に関するデータベース」)。
同じデータで水平面と比べると、さいたまで真南30度に傾けたときの年平均日積算日射量(kWh/㎡/日)は水平面の約1.13倍です。真南30度を基準に見れば、水平面はその約88%、つまり約12%少ないことになります。
ただし、これは架台を自由に組める前提での理論値です。工場や倉庫の陸屋根・平坦屋根に新設する産業用の自家消費型太陽光発電では、傾斜をつけるほど架台・基礎工事のコストが増加するため、発電量とコストのトレードオフで水平設置が有利になるケースが多くあります。
年間最適傾斜角と、真南30度に傾けたときの日射量が水平面の何倍になるかを、MONSOLA-11の9地点で並べると次のようになります。数値は年平均日積算日射量(kWh/㎡/日)から計算しています。
| 地点 | 年間最適傾斜角 | 真南30度/水平面 |
|---|---|---|
| 札幌 | 34.8度 | 1.13倍 |
| 仙台 | 34.5度 | 1.14倍 |
| さいたま | 33.6度 | 1.13倍 |
| 東京 | 32.8度 | 1.12倍 |
| 新潟 | 25.0度 | 1.06倍 |
| 名古屋 | 32.5度 | 1.13倍 |
| 大阪 | 29.2度 | 1.10倍 |
| 福岡 | 26.1度 | 1.07倍 |
| 那覇 | 17.6度 | 1.02倍 |
緯度が高いほど最適傾斜角は大きくなる傾向がありますが、緯度だけでは決まりません。新潟は東京より北にありながら25.0度と小さくなっています。同じデータで冬(12〜2月平均)の水平面日射量を見ると、新潟は1日あたり1.61kWh/㎡でさいたまの2.72kWh/㎡を下回っており、冬の日射条件が影響していると考えられます。
真南30度を基準にすると、水平面の日射量は那覇では約1.5%少ないだけですが、さいたま・東京では約11〜12%少なくなります。傾斜をつける価値は、同じ日本国内でも地点によって大きく違うということです。
なお季節ごとに見ると、さいたまの最適傾斜角は冬57.4度・夏7.2度と大きく動きます。産業用の屋根置きでは角度を年間固定するため、年間の日射量を比べるときの目安になるのは年間最適傾斜角のほうです。実際の設計では、これに加えて電力需要との重なりや費用も判断条件になります。
斜めに設置する場合は、構造上の理由から金属製の架台(パネルに角度をつけて支える部材)が必要になります。本記事の比較例では、450Wのパネル1枚あたり、パネル本体が18,000円だとしても架台には約9,000円かかる想定です。一方、水平設置の例では大きな架台を使わず、1個650円程度の押さえ金具を数個使う構成にしています。実際に必要な部材は屋根の構造・防水仕様・荷重条件で変わります。
図のとおり、パネル本体(18,000円/枚)は同じでも、支持部材が架台(9,000円/台)か押さえ金具(650円/個)かで前提が変わります。パネル2枚では次のようになります。
| 項目 | 斜め設置(30度・2枚) | 水平設置(2枚) |
|---|---|---|
| パネル本体 | 36,000円(18,000円×2枚) | 36,000円(18,000円×2枚) |
| 架台・押さえ金具 | 架台18,000円(9,000円×2基) | 押さえ金具5,200円(650円×8個) |
| 部材費の合計 | 約54,000円 | 約41,200円 |
同じ2枚を設置する場合でも、設置方法によって部材費だけで約12,800円の差が出ることになります。
図でも同じ内訳(54,000円と41,200円、差額12,800円)が示されています。なお、部材やパネル本体の単価は市況により変動します。
真南向きに限れば、30度ほどの傾斜をつけた方が同じ設備容量あたりの発電量は多くなります。ただし同じ枚数で比べたときの差は、部材費の差をすぐに取り戻せるほどの大きさではありません。
450Wのパネルを2枚(合計900W)真南向きに設置し、30度の斜め設置で年間約990kWh発電するものとして試算します(990kWhは本記事で置く前提値です)。さいたまでは真南30度を基準に水平面の日射量が約88%のため、発電量が日射量に比例すると仮定すると、同じ2枚を水平に置いた場合は年間約875kWh程度と見積もられます。その差は年間で約115kWh、電気料金を1kWhあたり23円とすれば年間約2,600円です。温度・影・汚れ・積雪などの条件差は含めていない概算です。
つまり、部材コストの差額12,800円を発電量の差だけで回収するには、単純計算で約5年かかることになります。増えた発電量をすべて自家消費して購入電力量を減らせた場合の、部材費の差額だけを見た単純計算です。電気料金単価は契約種別・時期で変動するため、この試算は一例です。投資回収年数の考え方は自家消費型太陽光発電の投資回収年数の試算方法で解説しています。
「角度」と同じくらい相談が多いのが屋根の向きです。向きの影響は傾斜角とセットで決まり、傾斜をつけるほど向きによる差が開きます。さいたま地点の年間日射量について、真南・傾斜30度を100としたときの比を並べると次のとおりです。
| 屋根の向き | 傾斜30度 | 傾斜10度 |
|---|---|---|
| 南 | 100 | 94 |
| 南東・南西 | 95 | 92 |
| 東・西 | 83 | 87 |
| 北東・北西 | 69 | 82 |
| 北 | 61 | 80 |
ここでいう「水平」は傾斜0度のことで、勾配屋根に屋根なりに設置する場合は、その屋根面の向きと勾配がそのまま条件になります。水平(傾斜0度)は向きの影響を受けず、どの向きでも真南30度の約88%です。表と見比べると、南向きの屋根では傾斜30度が水平を上回る一方、東西向きでは傾斜30度(83)が水平(88)を下回り、北寄りの屋根ではその差がさらに開きます。南向き以外の屋根では、角度をつけること自体が不利に働く場合があるということです。
MONSOLA-11は日射量を南中時刻を中心に午前と午後で対称に配分しているため、東向きと西向きは同じ値になります。実際には朝夕の雲の出やすさや周辺の建物の影で東西差が出るため、方位が振れている屋根では個別のシミュレーションが必要です。
本試算のさいたま・真南向きでは、架台を用いた斜め設置のほうが同じ設備容量あたりの発電量はやや多くなる一方、部材コストの回収には時間がかかります。それであれば、水平設置でコストを抑え、その分でパネルを1枚多く設置したほうが、全体の発電量が増え、投資回収が早まる可能性があります。
図は斜め2枚(54,000円)と水平3枚(パネル3枚54,000円+押さえ金具5,200円=59,200円)の比較で、設備費用の差は約5,200円です。
本試算の前提では、水平設置のパネル1枚による発電量は年間でおよそ8,000〜10,000円分に相当します。斜め2枚(年間約990kWh)と水平3枚(同約1,313kWh)を比べると、差は年間約323kWh、23円/kWhで約7,400円分です。設備費用の差額だけで見れば、1枚追加しても1年程度で追加費用の回収が可能という計算になります。増えた発電量をすべて自家消費できた場合の、部材費の差額だけを見た計算です。
屋根側の条件は業種や建物の用途による屋根の強度と設置スペースの違い、強風時の考え方は太陽光パネルが強風で飛ばされる可能性についての解説で扱っています。
水平設置が推奨されるケースが多いものの、環境や屋根の状態によって最適な設置方法は変わります。周囲に影を作る建物があったり、屋根が北勾配(北向きに傾いた屋根面)になっている場合、屋根なりに設置すると受けられる日射量が下がるため、斜め設置が選択されることがあります。さいたまの比較でも北向きは傾斜10度で80、傾斜30度で61と勾配によって開きが大きく、低下の程度は屋根の勾配と影の条件で変わります。
また、北勾配の屋根では反射光が後方の建物やエリアに影響を与える可能性があります。向きや角度を変えることで日射条件や反射光への影響を改善できる場合があるため、周辺の状況とあわせて個別に確認します。反射光の考え方は太陽光パネルの反射光が近隣住民に迷惑をかけることはあるのかで解説しています。
恒電社としても、南向きまたは平らな屋根の場合には平置きを推奨しています。屋根形状ごとの向き不向きは屋根上太陽光発電設備の設置と屋根形状の関係を解説した記事、積雪時の考え方は太陽光パネルに雪が積もった場合の発電量もあわせてご覧ください。
――現在でも、斜めに設置することはありますか。
斜めに設置することは以前もありましたし、お客様のニーズによっては、現在でも斜めに設置するケースがあります。例えば、1枚あたりの発電量を最大限効率的に得たいと考える方は、斜め設置を希望されることが多いです。
――導入コストだけで、斜めか水平かを決めているのですか。
現実には様々な要因が絡むため、“導入コスト”だけをみて「斜め設置が有利なのか、水平設置が有利なのか」を判断しているわけではありません。
――問い合わせの前に、お客様が確認しておくべきことはありますか。
お客様自身が屋根の状態や周囲の環境を正確に把握することは難しいため、恒電社の専門チームに現場を見せて頂き、シミュレーションを基に最適な設計をお任せいただくことが、最適な方法と考えます。
恒電社では現地調査とシミュレーションを前提に、条件ごとの最適な設計をご提案しています。屋根上への設置を検討される方は、十万石ふくさや様の工場屋根への太陽光発電導入事例もご覧ください。屋根上・ソーラーカーポートなどの設置方法や導入の流れは、法人向け自家消費型太陽光発電のサービス案内にまとめています。
屋根のスペースが狭く多くのパネルを設置できない場合や、屋根が非常に広く電力需要が少ない場合は、部材費の比較だけでは結論が出ません。恒電社ではお客様一社一社に細かいシミュレーションを行い、最適な提案をするよう努めています。
住宅用は既存の勾配屋根に沿わせるため架台自体が小さく済みますが、産業用・自家消費型で工場や倉庫の陸屋根・低勾配屋根に新設する場合は、傾斜をつけるほど架台・基礎工事のコストが増加します。さいたま地点では真南30度を基準に水平面の日射量が約12%少ないのに対し、本記事の部材単価例では部材費の差額がパネル本体1枚分(18,000円)の7割ほどにあたり、その差額を増設費用の一部に充てられるためです。
そのままでは当てはまりません。ここでの試算は真南向きを想定しています。前掲のさいたまの比較では、真南30度を100としたとき東・西向きで傾斜30度が83、水平面が88で、東西向きの屋根では傾斜30度の日射量が水平面を下回ります。南向き以外の屋根では、傾斜をつけること自体が有利とは限らないということです。勾配のある屋根ではさらに条件が変わるため、実際の判断は現地調査と個別のシミュレーションを前提にしてください。
「うちの屋根に載せられるのか」への答えは、屋根の構造・築年数・耐荷重で変わります。設置可否の見立てや構造確認の進め方など、設計段階の疑問からご相談いただけます。