2022年から2023年にかけて続いた燃料費高騰の影響により大手電力会社が値上げ申請を行う中、九州電力は2023年2月9日の記者会見で、2023年2月時点では値上げしないことを発表しました。それにはマスコミも関係者も驚きました。
その理由のひとつとして、佐賀県にある玄海原子力発電所4号機が国の審査を経て、2023年2月7日に原子炉を起動させたことがあります。徐々に出力を上げ、3月上旬に通常運転へ復帰する予定で、この再稼働は値上げを見送る背景の一つと考えられます。
「なぜ電力会社によって電気料金が異なるのか?」
「値上げをする電力会社としない電力会社は何が違うのか?」
九州電力の電源の中身や、原子力発電所の現状と今後の方針などから解説します。
九州電力の原子力発電所は、佐賀県の玄海原子力発電所と鹿児島県の川内原子力発電所の2か所です。原子力規制委員会の発電所一覧で九州にある商用の原子力発電所は、この2発電所だけで、熊本県など他の九州各県にはありません。運転状況は次のとおりです(原子力規制委員会「発電所の現在の運転状況」2026年9月16日更新)。
| 発電所 | 所在地 | 号機 | 運転状況 |
|---|---|---|---|
| 玄海原子力発電所 | 佐賀県 | 1号機・2号機 | 廃止措置中 |
| 3号機 | 停止中 | ||
| 4号機 | 運転中 | ||
| 川内原子力発電所 | 鹿児島県 | 1号機・2号機 | 運転中 |
廃止措置中の玄海1・2号機を除く4基(玄海3・4号機、川内1・2号機)のうち、運転中は3基です。最新の運転状況は原子力規制委員会の公式サイトでご確認ください。
「原発再稼働が電気料金を下げるのか?」についてはこちらの動画で詳しく解説しておりますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。
日本のエネルギー基本計画の大前提となるのは「S+3E」の考え方です。
S+3Eとは、Sは安全性(Safety)を大前提として、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一に、低コストでのエネルギー供給を実現し(Economic Efficiency)、同時に環境(Environment)へ配慮することを図っております。
第6次エネルギー基本計画では、これを前提として2030年に向けたエネルギー計画を策定しました。
その目標となる電源構成は、図1の通り火力発電41%・再生可能エネルギー36~38%・原子力発電22~24%としております。これを実現することで安定した電力供給と安価な電源を確保し、2030年度、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指します。
では現在の電源構成と2030年の電源構成目標を見てみましょう。
2021年度の速報値では図2の通り火力発電に71%以上頼っていました(2021年度実績。最新の2024年度確報では、原子力の割合は9.4%です)。燃料費高騰により赤字に転落し、大手電力7社は値上げに踏み切りました。
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第6次エネルギー基本計画の計画段階では、経済効率性の考え方として「①コストが低下した再エネの大量導入」「②化石燃料の価格低下」を見込んでいました。しかしロシアによるウクライナ侵攻や円安などの複合的な要因から化石燃料の価格は高騰し、電力量料金への影響を受けることとなりました。
燃料費の高騰を受け昨年夏ごろから赤字に転落した大手電力7社(北海道電力・東北電力・東京電力・北陸電力・中国電力・四国電力・沖縄電力)が経済産業省に値上げの申請を行ったのです。
九州電力も赤字転落となりましたが、記者会見では値上げをしない(当面)と発表しました。
その背景の一つとして、九州電力の「電源構成」が挙げられます。
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九州電力と東京電力の電源構成の違いを見てみましょう。
東京電力の電源構成の内訳は、火力発電77%、再エネ(水力発電含む)14%、原子力発電は0%です。一方、九州電力は火力発電わずか36%、再エネ(水力発電含む)19%、原子力発電36%となっております。
つまり他の大手電力と比べても原子力発電、再エネの発電比率が高く、燃料費高騰の影響を他大手電力よりも受けにくい電源構成となっていることが分かります。そして2023年3月には玄海原子力発電所4号機が通常運転に復帰しました(結果確定済み)。電力の安定供給とコストの安い電源を確保したことが値上げしない理由の要因と考えられます。
九州電力の電源構成を見れば燃料費高騰の影響が少ないことが分かりましたが、これにより電力料金を安く維持することはできるのでしょうか?
九州電力の原子力発電所の現状を見てみましょう。
九州電力は、佐賀県にある玄海原子力発電所(1号機~4号機)と鹿児島県にある川内原子力発電所(1号機、2号機)の計6基があります。うち玄海原子力発電所の1号機は2015年に、2号機は2019年に運転を終了しました。廃止措置中の1・2号機を除く4基について、2026年9月16日時点では玄海3号機が停止中、残る3基が運転中です。川内原子力発電所の1号機、2号機も図3の通り2024年1基、2025年1基と合計2基が、原則の運転期間である運転開始から40年を迎えます。ただし原子力規制委員会は2023年11月1日、川内原子力発電所1・2号機の運転期間延長(最長20年)を認可しており、この節目で運転が終了することはなく、60年運転が可能になっています(2026年9月時点)。
従来の制度では、原子力発電所の運転期間は原則40年で、原子力規制委員会の認可を受けた場合に限り1回・最長20年延長できる仕組みでした。
経済産業省が示した原子力発電所の「運転停止期間は除外」という考え方は、2023年5月成立・2025年6月6日施行のGX脱炭素電源法により制度化されました。運転開始から40年を超えた原発も、経済産業大臣の認可と原子力規制委員会による長期施設管理計画の認可を条件に、60年を超える運転が可能になっています。この制度により、一定の認可を条件として、既存の原子力発電所を60年を超えて運転できる枠組みが整いました。
玄海原子力発電所4号機の建設費用は1997年完成時3,244億円です。
40年で運転を終了し、同等規模の供給力を新設電源で補う場合には、新たな電源投資が必要となります。例えば原子力発電所100万kW級を建設した場合、政府は2015年の発電コスト検証で1基あたりの建設費を4,400億円程度と置いていました(2018年のエネルギー基本計画素案の報道による)。
一方、三菱重工のトルコ計画や東芝の米国事業など、海外の新設計画では、建設費が1基あたり1兆円を超える見通しが報じられました。海外の個別計画では政府の2015年試算の2倍を超える建設費が報じられた例もあり、日本国内での建て替え費用を直接示すものではありませんが、廃炉にかかる費用なども考えれば本当に「コストの安い電源」なのでしょうか?また、60年を超える運転については、国内での運転実績や費用面の見通しを本記事の資料だけでは確認できず、老朽化対策や安全対策に必要な費用も原子炉ごとに異なるため、安い電源として維持できるかは不明です。
カーボンニュートラル達成のため、発電時に温室効果ガスをほとんど排出しない原子力発電を2030年の電源構成として22~24%を見込んでいます。現在国内には2023年2月現在、15原発33基の原子力発電所があります。このうちの半数の17基が運転開始から30年を超えており、さらに、原子力規制委員会の認可を得て、3原発4基の40年を超える運転延長が認められました。なお、2026年9月16日時点の原子力規制委員会の一覧では、運転中が11基、停止中が22基の計33基で、このほか20基が廃止措置中です。
しかし発電電力量に占める原子力の割合は、2021年度実績では5.9%でした。その後、資源エネルギー庁の「2024年度エネルギー需給実績(確報)」では9.4%となっています。政府は原子力発電の課題として下記に1~5を上げております。そしてこの解決方法にもコストがかかります。
1 使用済み燃料への対策 中間貯蔵施設、安全貯蔵拡大への能力
2 核燃料サイクルの実現 原子力発電を維持するための燃料の流れ(処理処分の有効利用)
3 安全性の確保と長期運転の維持 老朽化への対応
4 最終処分場問題
5 地元住民への理解
ここまで解説した「値上げ回避」は2023年2月時点の出来事です。その後、九州電力の電気料金を取り巻く状況は変化しています。2026年10月14日時点で確認できている主な動きを整理します。
九州電力は2024年11月28日、季時別電灯・時間帯別電灯・深夜電力A/Bなど主にオール電化住宅向けの低圧規制料金メニューについて、2025年4月1日適用で単価を見直すと発表しました。夜間単価は13.27円/kWhから14.59円/kWhへ引き上げられた一方、季時別電灯のデイタイム夏季単価は35.57円/kWhから33.57円/kWhへ引き下げられました。時間帯によって改定の方向が異なります。改定の理由は太陽光発電の普及による需給構造の変化(昼間の供給過剰・夜間の需給ひっ迫)であり、2023年の値上げ見送りの背景の一つと考えられる玄海4号機の運転再開とは別の要因です。詳しくは九州電力の発表(2024年11月28日)をご確認ください。
2023年当時「政府案」だった原子力発電所の運転期間ルールは、GX脱炭素電源法として2023年5月に成立し、2025年6月6日に施行されました。運転開始から40年を超える原発も、経済産業大臣の認可と原子力規制委員会による長期施設管理計画の認可を条件に、60年を超える運転が可能となっています。また電気料金には燃料費調整単価や政府の「電気・ガス料金支援」による割引も影響しており、九州電力の2026年8月分(7月使用分)の料金には、低圧で1kWhあたり▲3.50円、高圧で▲1.80円の割引が反映されています(九州電力の発表、2026年6月26日)。割引単価や対象期間は料金月によって異なる場合があります。2026年8月分の単価・支援内容は九州電力の公式発表でご確認ください。なお、政府の電気・ガス料金支援は2026年7〜9月使用分が対象です(出典:資源エネルギー庁「電気・ガス料金支援」特設サイト)。九州電力が2026年9月29日に公表した11月分の燃料費等調整単価には、この支援による割引は含まれていません。発表では、前月分の単価に支援による割引が含まれていたことが注記されています(出典:九州電力「2026年11月分電気料金の燃料費等調整単価をお知らせします」2026年9月29日)。2026年10月14日時点で、追加の支援の発表は確認できません。
電気代を左右するもう一つの要因に、送配電にかかる「託送料金」があります。九州電力送配電は2026年9月11日に託送供給等約款の変更届出を行い、新たな託送料金の実施は2026年11月1日を予定しています(出典:九州電力送配電「『託送供給等約款』の変更届出を行いました」2026年9月11日)。同社の発表の別紙では、高圧の標準接続送電サービスの基本料金が1kWあたり553.28円から740.52円へ上がり、電力量料金は1kWhあたり2.61円から2.57円へ見直されます(いずれも税込)。小売側では、九州電力が2026年9月28日に、託送料金の見直しを反映した新しい電気料金単価を2026年11月1日使用分から適用すると発表しました。高圧の業務用電力A・産業用電力Aでは、基本料金が1kWあたり2,142.78円から2,343.19円へ上がり、電力量料金は据え置きです。ご家庭の従量電灯B(契約電流30A・月250kWh)では、1か月あたり367円の影響額が示されています(いずれも税込。出典:九州電力「託送料金見直しを反映した新たな電気料金単価を設定します-2026年11月1日から新単価を適用-」2026年9月28日)。高圧のこの増加分は購入電力量を減らしてもほとんど変わらず、直接効くのは最大需要電力(デマンド)を抑えて契約電力を下げる取り組みです。自家消費型太陽光発電や省エネで購入電力量を減らす対策は、燃料費等調整額や再エネ賦課金など、使用量に応じてかかる費用を抑える方向に働きます。制度の仕組みと2026年の動向はレベニューキャップ制度とは?仕組みと電気代への影響をわかりやすく解説で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
九州電力は2023年2月時点で、当面値上げしない方針を発表しました。本記事では、玄海原子力発電所4号機の再稼働などがその背景の一つだったと考えています。ただし2025年4月からは、太陽光発電の普及に伴う需給構造の変化を理由に、季時別電灯など主にオール電化住宅向けメニューの夜間単価が引き上げられています。また、2026年11月1日使用分からは、託送料金の見直しを反映した新しい電気料金単価が適用されます(九州電力、2026年9月28日発表)。値上げの有無は料金メニューや時期によって異なるため、詳しくは九州電力の公式発表をご確認ください。
燃料費調整単価、政府の電気・ガス料金支援策の有無、託送料金(レベニューキャップ制度)の改定など複数の要因が影響するため、本記事で確定的な見通しをお伝えすることはできません。最新の単価・支援策は九州電力の公式発表ページでのご確認をおすすめします。
原子力発電は、発電時に温室効果ガスをほとんど排出しない一方、安全性や廃棄物処分などの課題があります。
しかし福島第一原子力発電所の事故で「安全神話」を反省し今後の電力としっかりと向き合うことが大切です。エネルギーに完璧なものはありません。コスト、安定供給、環境への配慮を考えたうえ、これからの時代に適したバランスの良いエネルギーを採用することが大切です。
原子力発電は再稼働により一時的なコスト安(燃料費高騰と比較)は可能になるかもしれませんが、特に東京電力圏内では建て替えコスト、次世代型原子力発電への投資、①~⑤の再稼働に向けた課題も山積です。火力発電は化石燃料輸入コストと温室効果ガス排出の問題、再生可能エネルギーも安定したベースロード電源開発へのリードタイム、調整力電源への技術、電源用地など課題はあります。電力高騰を契機に、企業もご家庭もエネルギー問題を真剣に考える時がきたと思います。
電気代の削減余地は、いまの契約単価と電気の使い方で会社ごとに異なります。自家消費型太陽光発電や省エネで購入電力量をどこまで減らせるか、御社の条件での検討からご相談いただけます。