2022年から2023年にかけて続いた燃料費高騰の影響により大手電力会社が値上げ申請を行う中、九州電力は2023年2月9日の記者会見で、2023年2月時点では値上げしないことを発表しました。それにはマスコミも関係者も驚きました。
その理由のひとつとして、佐賀県にある玄海原子力発電所4号機が国の審査を経て、2023年2月7日に原子炉を起動させたことがあります。徐々に出力を上げていき、3月上旬には通常運転に復帰することで値上げを回避するという内容です。
「なぜ電力会社によって電気料金が異なるのか?」
「値上げをする電力会社としない電力会社は何が違うのか?」
九州電力の電源の中身や、原子力発電所の現状と今後の方針などから解説します。
「原発再稼働が電気料金を下げるのか?」についてはこちらの動画で詳しく解説しておりますので、ご興味ある方はぜひご覧ください。
日本のエネルギー計画と電源構成の現状
日本のエネルギー基本計画の大前提となるのは「S+3E」の考え方です。
S+3Eとは、Sは安全性(Safety)を大前提として、エネルギーの安定供給(Energy Security)を第一に、低コストでのエネルギー供給を実現し(Economic Efficiency)、同時に環境(Environment)へ配慮することを図っております。
第6次エネルギー基本計画では、これを前提として2030年に向けたエネルギー計画を策定しました。
その目標となる電源構成は、図1の通り火力発電41%・再生可能エネルギー36~38%・原子力発電22~24%としております。これを実現することで安定した電力供給と安価な電源を確保し、2030年度、温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指します。
では現在の電源構成と2030年の電源構成目標を見てみましょう。
2021年度の速報値では図2の通り火力発電に71%以上頼っていました(2021年度実績。2026年7月時点で最新年度の数値は資源エネルギー庁・各電力会社の公式ページでのご確認を推奨します)。燃料費高騰により赤字に転落し、大手電力7社は値上げに踏み切りました。
九州電力と他大手電力は何が違うのか?
第6次エネルギー基本計画の計画段階では、経済効率性の考え方として「①コストが低下した再エネの大量導入」「②化石燃料の価格低下」を見込んでいました。しかしロシアによるウクライナ侵攻や円安などの複合的な要因から化石燃料の価格は高騰し、電力量料金への影響を受けることとなりました。
燃料費の高騰を受け昨年夏ごろから赤字に転落した大手電力7社(北海道電力・東北電力・東京電力・北陸電力・中国電力・四国電力・沖縄電力)が経済産業省に値上げの申請を行ったのです。
九州電力も赤字転落となりましたが、記者会見では値上げをしない(当面)と発表しました。
その理由は九州電力の「電源構成」にありました。
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九州電力の電源構成
九州電力と東京電力の電源構成の違いを見てみましょう。
東京電力の電源構成の内訳は、火力発電77%、再エネ(水力発電含む)14%、原子力発電は0%です。一方、九州電力は火力発電わずか36%、再エネ(水力発電含む)19%、原子力発電36%となっております。
つまり他の大手電力と比べても原子力発電、再エネの発電比率が高く、燃料費高騰の影響を他大手電力よりも受けにくい電源構成となっていることが分かります。そして2023年3月には玄海原子力発電所4号機が通常運転に復帰しました(結果確定済み)。電力の安定供給とコストの安い電源を確保したことが値上げしない理由の要因と考えられます。
原子力発電の再稼働で電力量料金は安くなるのか?「60年運転」制度とは(2025年6月施行)
九州電力の電源構成を見れば燃料費高騰の影響が少ないことが分かりましたが、これにより電力料金を安く維持することはできるのでしょうか?
九州電力の原子力発電所の現状を見てみましょう。
九州電力は、佐賀県にある玄海原子力発電所(1号機~4号機)と鹿児島県にある川内原子力発電所(1号機、2号機)の6基があります。うち玄海原子力発電所の1号機は2015年に、2号機は2019年に運転を終了しましたので現在運転しているのは4基となります。川内原子力発電所の1号機、2号機も図3の通り2024年1基、2025年1基と合計2基が、原則の運転期間である運転開始から40年を迎えます。ただし原子力規制委員会は2023年11月1日、川内原子力発電所1・2号機の運転期間延長(最長20年)を認可しており、この節目で運転が終了することはなく、60年運転が可能になっています(2026年7月時点)。
現行の法案では、原子力発電所の運転期間は「原則40年、延長は1回限り最長60年」と定められています。
経済産業省が示した原子力発電所の「運転停止期間は除外」という考え方は、2023年5月成立・2025年6月6日施行のGX脱炭素電源法により制度化されました。運転開始から40年を超えた原発も、経済産業大臣の認可と原子力規制委員会による長期施設管理計画の認可を条件に、60年を超える運転が可能になっています。九州電力が値上げを回避できた背景には、こうした長期運転を見据えた電源構成があったと考えられます。
玄海原子力発電所4号機の建設費用は1997年完成時3,244億円です。
建設から原則40年ルールでは本来新たに立て替えるか、新たな電源投資が必要となります。例えば原子力発電所100万kW級を建設した場合、政府は2018年試算では1基4,400億円程度としておりました。
しかし安全性への配慮、テロ対策など商社や原発メーカーによる試算額は1基1兆円を超えています。建て替え費用が2倍以上、廃炉にかかる費用などを考えれば本当に「コストの安い電源」なのでしょうか?また「60年越え適用」とされた場合、長期間運転の実績もないので、老朽化、安全対策費用は原子炉ごとへの個別対応となるので本当に安い電源として維持可能なのかも不明です。
原子力発電所の現状と再稼働に向けた5つの大きな課題
カーボンニュートラル達成のため、温室効果ガスの排出がない原子力発電を2030年の電源構成として22~24%を見込んでいます。現在国内には2023年2月現在、15原発33基の原子力発電所があります。このうちの半数の17基が運転開始から30年を超えており、さらに、原子力規制委員会の認可を得て、3原発4基の40年を超える運転延長が認められました。
しかし原子力発電は全電源の5.9%しか現在稼働していないのが現状です。政府は原子力発電の課題として下記に1~5を上げております。そしてこの解決方法にもコストがかかります。
1 使用済み燃料への対策 中間貯蔵施設、安全貯蔵拡大への能力
2 核燃料サイクルの実現 原子力発電を維持するための燃料の流れ(処理処分の有効利用)
3 安全性の確保と長期運転の維持 老朽化への対応
4 最終処分場問題
5 地元住民への理解
【2026年7月更新】九州電力の電気料金は今どうなっている?
ここまで解説した「値上げ回避」は2023年2月時点の出来事です。その後、九州電力の電気料金を取り巻く状況は変化しています。2026年7月時点で確認できている主な動きを整理します。
低圧規制料金の見直し(2025年4月適用)
九州電力は2024年11月28日、季時別電灯・時間帯別電灯・深夜電力A/Bなど主にオール電化住宅向けの低圧規制料金メニューについて、2025年4月1日適用で単価を見直すと発表しました。夜間単価は13.27円/kWhから14.59円/kWhへ引き上げられた一方、季時別電灯デイタイム夏季等の日中単価は35.57円/kWhから33.57円/kWhへ引き下げられています。改定の理由は太陽光発電の普及による需給構造の変化(昼間の供給過剰・夜間の需給ひっ迫)であり、2023年の「値上げ回避」を実現した原子力発電再稼働とは別の要因です。詳しくは九州電力の発表(2024年11月28日)をご確認ください。
「60年運転」制度の施行と燃料費調整・政府支援
2023年当時「政府案」だった原子力発電所の運転期間ルールは、GX脱炭素電源法として2023年5月に成立し、2025年6月6日に施行されました。運転開始から40年を超える原発も、経済産業大臣の認可と原子力規制委員会による長期施設管理計画の認可を条件に、60年を超える運転が可能となっています。また電気料金には燃料費調整単価や政府の電気・ガス価格激変緩和対策による割引も影響しており、2026年7〜9月使用分は低圧で1kWhあたり3.50円程度の割引が実施されています(10月以降の継続は2026年7月時点で未定です)。最新の単価・支援策は九州電力の公式発表でご確認ください。
電気代を左右するもう一つの要因に、送配電にかかる「託送料金」があります。制度の仕組みと2026年の動向はレベニューキャップ制度とは?仕組みと電気代への影響をわかりやすく解説で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 九州電力は結局、電気料金を値上げしたのですか?
2023年春の規制料金の抜本的な値上げは、玄海原子力発電所4号機の再稼働により回避しました。ただし2025年4月からは、太陽光発電の普及に伴う需給構造の変化を理由に、季時別電灯など主にオール電化住宅向けメニューの夜間単価が引き上げられています。値上げの有無は料金メニューや時期によって異なるため、詳しくは九州電力の公式発表をご確認ください。
Q2. 今後さらに電気料金が上がる可能性はありますか?
燃料費調整単価、政府の電気・ガス料金支援策の有無、託送料金(レベニューキャップ制度)の改定など複数の要因が影響するため、本記事で確定的な見通しをお伝えすることはできません。最新の単価・支援策は九州電力の公式発表ページでのご確認をおすすめします。
電力は選べる時代、だからこそ電源と真剣に向き合う時代
小さな燃料ペレットが大きなエネルギーをもたらし安定した電力を創る。その電力は温室効果ガスを排出しない「夢のエネルギー」と言われたのが原子力発電です。
しかし福島第一原子力発電所の事故で「安全神話」を反省し今後の電力としっかりと向き合うことが大切です。エネルギーに完璧なものはありません。コスト、安定供給、環境への配慮を考えたうえ、これからの時代に適したバランスの良いエネルギーを採用することが大切です。
原子力発電は再稼働により一時的なコスト安(燃料費高騰と比較)は可能になるかもしれませんが、特に東京電力圏内では建て替えコスト、次世代型原子力発電への投資、①~⑤の再稼働に向けた課題も山積です。火力発電は化石燃料輸入コストと温室効果ガス排出の問題、再生可能エネルギーも安定したベースロード電源開発へのリードタイム、調整力電源への技術、電源用地など課題はあります。電力高騰を契機に、企業もご家庭もエネルギー問題を真剣に考える時がきたと思います。
記事を書いた人
狩野 晶彦
クリエイティヴ担当
岩見啓明

