要約
「レベニューキャップ制度」の導入と背景:2023年4月から始まった「レベニューキャップ制度」は、総括原価方式を廃止し、電力会社が自ら収入目標を設定して経営効率化を図る仕組みです。老朽化した送配電網の更新やデジタル化、再生可能エネルギーの普及を進めるための先行投資を促進します。この制度により、初期段階では電気料金の値上げが見られますが、将来的には効率的な電力網の構築を目指しています。
電力自由化の進展と送配電網の課題:電力自由化は2016年の小売全面自由化により加速し、対談収録時点(2023年5月)で720社以上の電力会社が競争する市場が形成され、その後も参入・撤退が続いています。しかし、送配電網は高度成長期に作られた設備が多く、老朽化が深刻な課題です。さらに、地域ごとに独立した送配電網は隣接地域間での電力融通が難しく、再エネ普及を妨げる要因となっています。
再エネ普及への期待と電気料金への影響:九州電力をはじめ、再エネ普及に取り組む電力会社は送配電網の更新やデジタル化を進めています。この取り組みには短期的な電気料金の値上げが伴いますが、将来的には環境価値の向上や国際的評価の上昇が見込まれます。「バーチャルパワープラント」構想なども視野に入れ、効率的かつ持続可能な電力供給体制の実現が期待されています。
【2026年7月追記】:第1規制期間(2023〜2027年度)は後半に入り、資材価格や労務費の上昇を受けて2025年10月には北海道・東北エリアで期中の託送料金改定が行われました。最新動向は記事末尾の追記をご覧ください。
※本稿はこちらの動画を記事化した内容となります。
※撮影(2023年5月)時点の情報を多く含んでおり、現在の状況とは異なる可能性がございます。
出演者紹介
狩野 晶彦
恒石陣汰(ツネイシ ジンタ)
レベニューキャップ制度とは?まず要点を整理
対談に入る前に、レベニューキャップ制度の要点を整理します(本章と記事末尾の「2026年動向」「よくある質問」は、対談後の制度動向を踏まえて加筆したものです)。
レベニューキャップ制度とは、送配電網の利用料(託送料金)のもとになる「収入上限(レベニューキャップ)」を、全国10社の一般送配電事業者ごとに国が承認する制度です。2023年4月に始まり、従来の総括原価方式に代わる仕組みとして導入されました。
- 対象:全国10エリアの一般送配電事業者(送配電網を運用する会社)
- 仕組み:5年間の「規制期間」ごとに事業計画と必要費用を国へ申請し、承認された収入上限の範囲内で託送料金を設定する
- 第1規制期間:2023〜2027年度(第2規制期間は2028年度から)
- 電気代への影響:託送料金はどの電力会社と契約していても電気料金の一部として支払うため、すべての企業・家庭の電気代に影響する
- ねらい:送配電網の更新・デジタル化・再エネ対応への投資を促しつつ、コスト効率化のインセンティブを働かせる
託送料金が電気料金のどこに含まれるかは、法人向け|電気料金の内訳はどのような仕組みになっているのか?で詳しく解説しています。
「レベニューキャップ制度」
―――この動画では、2023年4月をスタートに、すべての電力会社が対象となる値上げ制度が始まったことについて、狩野さんに解説していただきます。電気料金を上げる会社もあれば、上げない会社もあるのではないかと考えていましたが、この制度では全ての電力会社が値上げの対象となるようです。具体的に、その制度についてお聞かせいただけますか?
ここは非常に困惑するポイントだと思います。
例えば、マスコミのニュースを見ると、東北電力、北海道電力、東京電力、北陸電力は値上げを行っています。一方で、中部電力、関西電力、九州電力は値上げをしていないという状況です。
ただし、各社のホームページには、「一部料金を値上げしました」と明記されていることがあります。これは、ある制度が導入された結果といえますね。
その制度とは、「レベニューキャップ制度」です。
―――「レベニューキャップ制度」ですか。
耳慣れない言葉ですね。あまり新聞でも取り上げられていない印象です。
―――業界にいる人でも、この言葉にピンと来ない方もいらっしゃるかもしれませんね。まず、このレベニューキャップ制度を理解するためには、前提となる知識が必要だと思います。この制度を理解する上で、どのようなことを知っておくべきでしょうか?
一番大事になるのは、「電力の自由化」でしょうね。

電力自由化の歴史
―――電力の自由化、よく聞きますね。
かつては安定した電力を供給するために、各エリアで1社独占が認められていました。これは多くの方がご存知のことだと思います。日本では10社の一般電気事業者が存在していました。
1995年に電気事業法が改正され、発電、送配電、小売の3つに分けられるようになりました。
そして2000年には、電力の販売がまず2000kW(キロワット)以上、いわゆる太陽光などでよく「2M(メガ)」と言われる規模以上のものが登録制で認可されました。
その後、高圧の小口、いわゆる500kW以上の規模が対象となり、さらに大口と言われる電力供給が認められるようになりました。
2005年からは高圧の電力供給が全て自由化されました。記憶に新しいのは、2016年4月の小売全面自由化です。
―――話題になりましたね。
これにより、現在では720社以上の電力会社が存在する状況になっています。
(※追記(2026年7月):「720社以上」は対談収録時点(2023年5月)の状況です。登録小売電気事業者の最新の一覧は資源エネルギー庁の登録小売電気事業者一覧で確認できます。)
―――自由化によって、電気が作られてから届けられるまでの流れが大きく3つに分けられたということですね。
発電、小売があり、簡単に言えば電気を売る会社は、自分たちが市場から電気を買い、それを託送業者に運んでもらう仕組みです。
そして、電気料金を請求するわけですが、電気を配る事業者は公益性が高いため、えこひいきが許されません。例えば、関西電力が東京電力のエリアに電気を運ぶ場合でも、えこひいきすることなく、同じ一定の金額と品質で電気を届ける必要があります。
そのため、今でも1エリアに1社だけの送配電事業者が存在しています。
―――ある種、独占状態のような形になっているということですね。
総括原価方式

公益性が高いため、1エリア1社だけが担当し、昔ながらの「総括原価方式」という経営方式が採用されています。
例えば、インフラにかかる投資額に一定の利益を上乗せし、それを分配するという仕組みです。この仕組みがあるため、送配電事業者が経営破綻することは基本的にありません。
―――1エリアに1社しか送配電事業者がいない状態には、メリットもあればデメリットもあると思います。メリットとしては、安定的な公益性がある点、つまり潰れない仕組みや一定の利益が確保される点が挙げられますよね。
そうです。投資の安定性や一定の利益が確保されることは、間違いなく大きなメリットです。
しかし、一般的な企業では、売上が同じで経費を削減すれば利益率が上がりますよね?一方で、総括原価方式では、コストを削減しても利益額は変わらないため、その削減が反映されません。
―――つまり、利益額があらかじめ決まっているということですね。
その通りです。結果として、コスト削減が自社の事業に反映されないばかりか、コスト削減を行わない体質が形成されやすくなります。
―――電力会社にとって、コスト削減の必要性が薄れるということですね。
そのように言われがちになるのは事実だと思います。
―――なるほど。それがデメリットの1つということですね。今回の新しい制度(レベニューキャップ制度)は、そのデメリットを解消するために生まれた制度という認識で合っていますか?
それも大きな目的の一つであることは間違いありません。

送配電網の抱える問題
さらに、送配電網自体が大きな問題を抱えていることも背景にあります。設備の老朽化です。
具体的には、4~5年前に千葉県を襲った台風で鉄塔が倒壊した事例を覚えている方も多いのではないでしょうか。
記録的暴風による送電線の鉄塔倒壊
2019年9月、千葉県君津市の送電用鉄塔2基(高さ57mと45m)が倒壊し、およそ10万戸が停電した。
(※追記(2026年7月):「4〜5年前」は対談収録時点(2023年5月)から見た表現で、2019年9月の台風15号による事例を指します。)
―――現在の送電網は、どの時期に作られたものですか?
主に高度成長期の1960年代頃に作られたものです。
―――それだと、もう約60年が経過しているわけですね。
その通りです。そのため、高度成長期に作られた送電網の更新時期に差し掛かっていることが、一つの大きな課題となっています。
加えて、通信技術と同様に、電力もデジタル化を進める必要があります。
―――なるほど。デジタル化が進まないことでのデメリット、そして進むことでのメリットはどのような点でしょうか?
例えば、「バーチャルパワープラント(VPP)」の実証実験が日本国内でも行われています。
(※追記(2026年7月):VPPを担うアグリゲーター(特定卸供給事業者)の届出制度が2022年4月に始まっており、現在は実証から実装への移行が進んでいます。)
蓄電池や電気自動車などの電力を貯める技術と、それを需要に合わせて調整する技術を組み合わせることで、少ない電力で効率的な供給を実現できます。さらに、省エネをより効率的に進めるためにも、デジタル化は不可欠です。
そして一番重要なのは、再生可能エネルギーを今後増やしていくことです。これについては、もう絶対的な課題だと言えます。
―――国としてもその方向性が示されていますからね。

ただ、北海道は北海道、東北は東北、関東は関東というように、地域ごとに独立した送配電網の形態で構築されてきたため、ネットワークが1本化されていません。
―――地域ごとに独立した送電網がいくつも存在しているということですね。
はい。その結果、隣接する地域へ電力を流すことができない状況があります。
実際、東北や九州では接続できないエリアが増えているのが現状です。このような問題を解決するためには、送電網のデジタル化や更新費用の捻出、さらには再生可能エネルギーを増やすための仕組みが必要です。
そこで登場するのが、今回の「レベニューキャップ制度」です。こうした経緯で、この制度が導入されるに至ったわけです。
―――日本全体でエネルギー効率を上げていくうえで、ボトルネックとなっている部分を解消していける制度の1つということですね。
その通りです。そのために、総括原価方式を廃止し、各電力会社が自ら収入(レベニュー)を設定し、それに基づいてコストカットの努力を行う仕組みを導入しています。
電力会社の取り組み
―――具体的に、この分野で一歩進んでいる電力会社や、送配電網の強化を進めている事例はありますか?
すべての電力会社が考えていると思います。
ただ、これまでは北海道なら北海道の送配電事業者しか存在していなかったたため、他エリアとの比較が難しい状況でした。そこで導入されたのが「点数制」です。
点数制により、中国エリア、関西エリア、北陸エリアなど、各エリアが競い合い、一番点数の高い基準に合わせて努力をする仕組みができました。
これにより、より良い送電網を構築しようという意図から「トップランナー制度」が設けられたのが、非常に大きな進展だと思います。
―――これ、具体的にレベニューキャップ制度の内容にも関わってくる話ですね。電力会社にとって、この点数制に基づいて一生懸命取り組むことになるわけですよね。
はい、その通りです。
―――電力会社側から見た場合、総括原価方式では利益額が固定されていたため、コストカットや送電網強化へのインセンティブが働きにくかったと思います。この点についてはどうでしょうか?
レベニューキャップ制度によって、必ずインセンティブが働く仕組みになります。
ただし、導入初期の5年間はどうしても料金が上昇する可能性があります。それでも、この制度のメリットとして、まず経営効率化が図られることが挙げられます。
(※追記(2026年7月):この「導入初期の5年間」は第1規制期間(2023〜2027年度)を指します。)
さらに、5年ごとの見直しが行われるため、大型台風のような災害で鉄塔や電柱が倒壊した場合でも、次の5年でコストをレベニューに反映させることが可能です。
これにより、経営的な負担が軽減される仕組みになっています。
―――なるほど。レベニューキャップ制度の導入によって、一般消費者の電気料金が高騰する理由としては、電力会社が送電網への投資や経営効率化、これまで行ってこなかった新しい取り組みに先行投資を行っているため、一定のコストが料金に反映されているということですね。
その通りです。送電網の更新、デジタル化、さらには再生可能エネルギーの導入など、これらの課題を同時に解決していくために、電力会社は限界まで取り組んでいます。
再エネ普及へ向けた九州電力の取り組み
今後も再エネを増やす努力を続けていく必要があります。例えば、九州電力では、7つの分野を掲げています。
「電力の安定供給」「再エネの導入拡大」「サービスレベルの向上」「電力の広域化」「デジタル化」「安全性、環境性への配慮」そして「次世代化」です。
さらに、この7分野に対して18の具体的な目標を設定し、より良い送電網の構築を目指しています。
ただし、このような取り組みには、陣汰さんがおっしゃったように、電力料金が上昇する可能性がある点も否めません。しかし、こうした考え方もできます。
再生可能エネルギーが増えることで、環境に優しい電力を生み出せるようになり、その環境価値を国民全体が利益として享受できる、ということです。
―――いずれ、再エネが普及してきた際に得られる便益、例えば金銭的な利益や、国際的な日本の評価向上といったメリットを将来得るために、既存の送電網や課題を解決するための先行投資としてレベニューキャップ制度がある、ということですね。
その通りです。いずれはバーチャルパワープラント構想のように、デジタル化による理想的な電力網が実現し、再生可能エネルギーがさらに普及していくでしょう。
その結果、国民全体に利益をもたらすことを目指しています。このような考え方を基に、先行投資を可能にする仕組みがレベニューキャップ制度と言えるでしょう。
レベニューキャップ制度による電力代の値上げは?
―――最後に、具体的に各電力会社がどのくらいの値上げ幅があったのか、今後の値上げ幅が増えていくのか、減っていく可能性もあるのかという観点で教えてください。
これは両方の可能性があります。
初めの5年間は値上げの方向性が強いです。先述のとおり、送電網への投資が必要になるためです。
しかし、長い目で見れば、15年や20年というスパンの中で送電網の費用を下げ、より便利な電力網を構築することが重要だと思います。

具体的な数字で言うと、東京電力管内の場合、高圧電力Aでは基本料金が1kW当たり98.37円、電力利用料金が1kWh当たり0.03円の値上げとなっています。
また、個人住宅向けの従量電灯Bでは、基本料金が10アンペアあたり9.24円の値上げで、使用料金は高圧電力と同じく1kWh当たり0.03円の値上げとなっています。
0.03円の値上げが高いのか安いのかは意見が分かれるところですが、将来への投資と捉えるべきだと思います。
(※追記(2026年7月):ここで挙げられている値上げ額は制度開始時(2023年4月)の東京電力管内の改定内容です。2025年10月には北海道・東北エリアで期中改定も行われています。詳細は記事末尾の追記をご覧ください。)
―――その分の費用がレベニューキャップ制度によって基本料金にしっかりと料金に組み込まれているということですね。
その通りです。実際、これは非常に大きな制度改革なんです。
せっかく電力料金に上乗せする形で投資をしているわけですから、私たち国民としても、良い送電網が作られているかどうかを温かく見守ることが大切だと思います。
【2026年7月追記】レベニューキャップ制度のいま
対談(2023年5月収録)の後も、制度は動いています。2026年7月時点の主な動向は次のとおりです。
- 第1規制期間は後半へ:2023〜2027年度の第1規制期間は残り2年を切り、各社の投資計画と実績の検証が進んでいます。
- 物価上昇を受けた期中の託送料金改定:制度設計時(2022年頃)の想定を超える資材価格・労務費の上昇を受け、期中でも収入上限を見直せる仕組みの整備が進みました。2025年10月には北海道エリア(北海道電力ネットワーク:託送供給等約款の変更届出)と東北エリア(東北電力ネットワーク:収入の見通しの変更承認申請)で期中の託送料金改定が実施され、両エリアの高圧・特別高圧を中心に電気料金の見直しにつながりました。
- 第2規制期間(2028〜2032年度)の検討開始:電力・ガス取引監視等委員会の料金制度専門会合で、事業報酬や物価上昇の扱いを含む次期制度の検討が進められています。
託送料金の上昇は、契約する電力会社を切り替えても避けられない「固定的なコスト増」です。対談で語られた「先行投資としての値上げ」という構図は2026年現在も続いており、企業側では購入する電力量そのものを減らす対策の重要性が高まっています。詳しくは電気料金高騰が製造業の競争力にもたらす影響の考察と、自家消費型太陽光発電と相性が良い企業の特徴をあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. レベニューキャップ制度はいつから始まりましたか?
2023年4月に始まりました。5年ごとの規制期間で運用され、第1規制期間は2023〜2027年度、第2規制期間は2028年度からの予定です。
Q2. どの会社が対象ですか?私の契約している電力会社にも関係ありますか?
収入上限の承認を受けるのは全国10社の一般送配電事業者ですが、託送料金はどの小売電力会社と契約していても電気料金に含まれるため、実質的にすべての企業・家庭に関係します。
Q3. 電気代はどのくらい上がりましたか?
2023年4月の制度開始時の改定幅は本文(対談)で解説したとおりです。その後、2025年10月には資材価格・労務費の上昇を反映した期中改定が北海道・東北エリアで行われるなど、エリアや時期によって改定幅は異なります。最新の単価は契約中の電力会社・送配電事業者の公表資料でご確認ください。
Q4. 企業ができる対策はありますか?
託送料金は電力会社の切り替えでは削減できないため、自家消費型太陽光発電などで「送配電網から購入する電力量」自体を減らすことが有効です。屋根上で発電した電気には託送料金も再エネ賦課金もかからないため、上昇し続ける固定的コストへの対策になります。
記事を書いた人
岩見啓明

