本稿の目的:工場の電気代が上がる理由を「燃料費」と「制度」に分けて整理し、ご自身の工場の単価を明細から確認する方法と、製造コストを守る対策の順番を示します。
結論:2026年の工場の電気代は、燃料費に加えて、再エネ賦課金の単価と、2026年9月使用分で値引き支援の対象期間が終わったことの影響を受け、託送料金も東京電力パワーグリッドのエリアでは2026年11月1日から改定される予定です。まず明細で自社の実効単価を確かめ、省エネ・運用改善から自家消費型太陽光へと順番に検討するのが着実です。
見落としがちなリスク:国の電気・ガス料金支援の値引きの対象は2026年9月使用分までで、2026年9月29日に電力会社が公表した10月使用分の料金には値引きが含まれていません。追加の支援の発表は、2026年10月14日時点で確認できていません。値引き分を補正せず、値引きが含まれた月の明細をそのまま基準にすると、値引きがない場合の対策効果を小さく見積もる可能性があります。
工場の電気代は、契約電力で決まる「基本料金」、使った分だけかかる「電力量料金」、燃料価格に連動する「燃料費調整額」、そして国が定める「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」の4つで構成されています。このうち工場側が直接動かせるのは、契約電力と使用量に連動する基本料金と電力量料金です。燃料費調整額と再エネ賦課金の単価は工場側では変えられませんが、購入電力量を減らせば、単価に使用量を掛けて算定されるこれらの負担額も減る場合があります。
2026年時点では、燃料費調整額の動きに加えて、再エネ賦課金の単価と値引き支援の対象期間が電気代に影響し、託送料金についても、東京電力パワーグリッドのエリアでは2026年11月1日からの改定が予定されています(2026年9月11日に託送供給等約款の変更届出)。制度側の単価は国による設定や、送配電事業者の申請と国の審査などを経て決まり、工場側では変えられません。
この記事では、①工場の電気代の単価をどう確認するか、②なぜ上がるのか(2026年時点の整理)、③製造業のQCDにどう響くか、④対策をどの順番で進めるか、の4点を解説します。弊社が実際の検討でお願いしている資料や、導入企業様の事例も交えてお伝えします。
※電気代が上がる仕組みを対談形式で解説した動画(2023年5月収録)も公開しています。収録時点の情報を含みますが、燃料費調整制度と電源構成の基本は変わっていないため、本文の理解の助けになります。
「工場の電気代は1kWhあたりいくらか」という問いに、全国一律の答えはありません。契約電力の大きさ、契約している電力会社と料金プラン、稼働時間帯、そしてその月の燃料費調整額によって変わるためです。確実なのは、ご自身の工場の直近12か月分の請求書から実効単価を出すことです。
請求書に記載された電気料金の合計額(税込)を、その月の使用電力量(kWh)で割ると、その月の「実効単価(円/kWh)」が出ます。基本料金や再エネ賦課金を含んだ、実際に支払っている1kWhあたりの金額です。夏冬と春秋で使用量が変わるため、1か月分ではなく12か月分で見ると、自社の水準がつかめます。
ここで注意したいのが、値引きが含まれている月の扱いです。国の電気・ガス料金支援により、2026年7月・8月・9月使用分の高圧契約には1kWhあたり1.8円・2.3円・1.8円の値引きが含まれています(経済産業省・2026年6月12日発表)。この3か月分の明細を値引き分の補正なしに基準とすると、値引きがない場合の単価を低く見積もる可能性があります。10月使用分の料金には値引きが含まれておらず、追加の支援の発表は2026年10月14日時点で確認できていません。
※国の発表では「2026年7月使用分(8月検針分)」のように、使用した月と検針・請求される月が1か月ずれて表記されます。請求書の「◯月分」がどちらを指すかは、契約している電力会社の表記でご確認ください。
基本料金の決まり方をもう少し詳しく知りたい方は、デマンド(最大需要電力)の仕組みを解説した記事もご参考ください。
デマンド(最大需要電力)とは?30分で基本料金が決まる仕組みとデマンドチャージ
4つの内訳それぞれの計算方法まで確認したい方は、法人向けに電気代の内訳を図解した記事で整理しています。
法人向け|電気代の内訳とは?基本料金・燃料費調整額・再エネ賦課金・託送料金の仕組み
電気代が上がる理由は、大きく「燃料費」と「制度」の2系統に分かれます。前者は燃料価格に応じて上がることも下がることもありますが、後者は国による設定や、送配電事業者の申請と国の審査などを経て決まり、工場側の使い方では単価を変えられない、という違いがあります。
日本の発電電力量のうち、火力発電(バイオマスを除く)は2024年度で67.5%を占めています(経済産業省「2024年度エネルギー需給実績(確報)」2026年4月14日)。再生可能エネルギー(水力を含む)は23.1%、原子力は9.4%です。火力の燃料である原油・LNG・石炭の価格変動は、燃料費調整額として毎月の電気代に反映されます。
燃料費調整制度とは、火力発電に用いる燃料(原油・液化天然ガス・石炭)の価格変動を、毎月の電気料金に反映させる仕組みのことです。この制度はほとんどの電力会社が導入しています。
引用:電気料金に含まれる「燃料費調整額」とは?仕組みと役割について解説(Looopでんき)
2022年から2023年にかけての高騰局面の背景は、上の動画(2023年5月収録)で解説しています。燃料価格は上下するため、この部分は「必ず上がり続ける」とは言えません。
一方で、反映のされ方には変更があります。東京電力エナジーパートナーは、2026年4月1日から特別高圧・高圧の燃料費調整の算定期間を見直し、各月分の燃料費調整単価を1か月間の貿易統計価格に基づいて算定する方式にしました。月ごとの燃料価格の変動が単価にどう表れるかは、明細を継続して確認する必要があります。
原子力や再エネの比率が高い電力会社ほど燃料費高騰の影響を受けにくい構造については、九州電力の料金動向を扱った記事で解説しています。
九州電力の電気料金値上げ、2023年は回避も2025年に単価見直し|最新動向を解説
2026年は、次の3つの制度側の動きが電気代に影響し得ます。
再エネ賦課金の仕組みと推移をまとめた記事、および値引き支援の対象期間と10月以降の見通しを整理した記事もあわせてご覧ください。
再エネ賦課金とは?2026年度4.18円/kWhの仕組みと法人の負担額
電気代の補助金はいつまで?対象は2026年9月使用分まで|10月使用分から法人の電気代はどう変わるか
製造業では、Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)の3つ、いわゆる「QCD」のバランスが競争力を左右します。3つは相互に関係しており、1つを追うと別の要素が悪化することも少なくありません。
「QCD」は製造業において、欠かすことのできない重要な要素です。製造業では、より良い製品を、満足できる価格で、希望する納期までに届ける努力・実行が求められます。QCDの3要素はどれも重要ですが、すべてを同じように向上させることは非常に困難です。それぞれ相互に関係しているので、1つを向上させると、別の要素が悪化することも少なくありません。製造業では、QCDは相互に関係して成り立っています。
引用:業務改善に役立つ「QCD」とは?優先順位やバランスのとり方を解説(キーエンス)
電気代は、この3つのうち「コスト」に直接効きます。製造コストが上がれば、販売価格への転嫁による価格競争力の低下や、価格を据え置いた場合の利益率の低下につながる可能性があります。さらに、電気代を抑えるために空調や設備の稼働を絞れば、温度管理が必要な工程では品質に、稼働時間を削れば納期に影響が及びます。
仕入れ価格の上昇などを価格転嫁できず倒産に至った企業があることは、倒産統計から確認できます。帝国データバンクの集計では、仕入れ価格の上昇などを価格転嫁できずに倒産した「物価高倒産」は2026年上半期に556件でした。うち製造業は103件で、2024年上半期以来2年ぶりに半期で100件を超えています(帝国データバンク「『物価高倒産』の動向(2026年上半期)」2026年7月7日)。
逆に言えば、競合より電気代を低く抑えられている工場には、その差を製品開発や設備更新、人材育成に振り向ける余地が生まれます。電気代は削るだけの費目ではなく、QCDを維持するための投資余力を左右する費目でもあります。
弊社は、外から環境価値を買う前に、まず使う電気と購入する電気を減らすことを提案の出発点にしています。電気代対策も同じ順番で考えると、必要な対策と投資の優先順位を整理しやすくなります。
空調・コンプレッサ・照明の運用見直しや高効率機器への更新で使用電力量を減らせれば、電力量料金の抑制につながります。あわせて、契約電力500kW未満の実量制では、30分ごとの使用電力のピークを継続的に抑えることで、基本料金を決める契約電力を下げられる可能性があります。東京電力パワーグリッドのエリアで2026年11月1日から上がる託送料金も、高圧・特別高圧では契約電力に応じた基本料金の部分が上がるため、その影響を抑える方向に働くのはこのピークの抑制です。設備投資の前に、まず使い方から見直すのがこの段階です。
工場の屋根や敷地に太陽光発電を設置し、発電した電気を自社で使うのが自家消費型太陽光発電です。昼間に電力会社から購入する電力量が減るため、電力量料金だけでなく、使用量に比例する再エネ賦課金の負担も減ります。初期費用を抑えたい場合は、PPA事業者が設備を所有し、工場は発電した電気の使用分を支払うPPA(電力販売契約)という導入方法もあります。弊社は自社購入型・PPA型の両方で設計・調達・施工を担当しています。
自家消費型太陽光の仕組みと3つの導入方法は、埼玉の工場事例を交えた解説記事で確認できます。
自家消費型太陽光発電とは?仕組み・メリットと注意点、3つの導入方法
自社の敷地で発電しきれない分は、オフサイトPPAなどの外部からの再エネ調達や、非化石証書などの環境価値の活用で補います。これらは購入電力量そのものを減らす手段ではないため、電気代対策としてはSTEP1・2を済ませたあとに検討する位置づけです。弊社は要点を整理したうえで、専門のパートナーへおつなぎしています。
弊社が自家消費型太陽光の検討をお受けするとき、最初にお願いしている資料は次の5点です。
実際の検討では、単線結線図が手元になく、保安点検の委託先へ照会して1週間ほど待つケースがありました。また、電力会社の値上げが決まっている場合は、値上げ後の明細を待ってから試算をやり直すこともあります。資料の準備状況によっては、検討開始までに時間を要することがあります。
埼玉県の精密加工メーカーである株式会社サン精密化工研究所様は、±1度以内の温度管理を求められる工程を抱えながら、自家消費型太陽光発電を導入されました。品質を落とさずに電気代と脱炭素の両方に向き合った経緯は、事例記事で詳しく紹介しています。
【導入事例】埼玉県の精密加工製造業|工場の“高品質と電気代と脱炭素”の均衡を維持する裏側
圧造メーカーの株式会社協進社様は、夏の工場の暑さ対策として空調導入を検討する中で、上がり続ける電気代への備えとして自家消費型太陽光発電に着目し、加須第2工場の屋根に約206.6kW(パネル426枚)を設置されました。職場環境と電気代の両方を起点にした判断の流れは、事例記事でご確認いただけます。
【導入事例】株式会社協進社様が自家消費型太陽光発電を導入|昭和23年創業の圧造メーカーが暑い工場で働く仲間のために選んだ一手
ご相談の場で導入が止まる理由は、電気代の高さそのものではなく、屋根の状態、他の設備投資との優先順位、初期費用の3つに集中しています。この5項目を先に確認しておくと、検討を進めるうえでの論点を早めに整理できます。
無料セミナー動画(アーカイブ配信中)
自家消費型太陽光発電・オンサイトPPAの「契約前に知っておきたいポイント」を、対談形式のセミナー動画4本で無料公開しています(フォーム登録後、すぐにご視聴いただけます)。
「必ず上がり続ける」とは言えません。燃料費調整額は燃料価格に連動して上下します。一方、再エネ賦課金は2026年度4.18円/kWhに設定され、託送料金は東京電力パワーグリッドのエリアで2026年11月1日から改定される予定であるなど、制度側の単価は工場側の使い方では変えられません。燃料費が落ち着く月があっても、少なくとも再エネ賦課金は2027年4月検針分まで適用され、託送料金も11月以降の請求で、改定後の単価がどのように反映されるか(高圧・特別高圧では主に基本料金側)を確認する必要があります。
2026年7月・8月・9月使用分が対象で、高圧契約の値引き単価はそれぞれ1.8円・2.3円・1.8円/kWhです(経済産業省・2026年6月12日発表)。2026年9月29日に公表された10月使用分の料金には値引きが含まれていません。追加の支援の発表は2026年10月14日時点で確認できていません。最新の情報は資源エネルギー庁の特設サイトでご確認ください。
概算の削減額は、自家消費できる発電電力量(kWh)と、購入を回避できる電気料金単価などを基に試算します。実際の結果は発電量、時間帯別の使用状況、契約条件などで異なります。30分ごとの使用データと発電シミュレーションで試算する方法は、下記のFAQで解説しています。
自家消費型太陽光発電の電気代削減効果はどれくらい?計算方法を解説
恒電社は、埼玉県を中心に工場・倉庫の自家消費型太陽光発電の設計・調達・施工と、高圧受変電設備の工事を一貫して担当しています。電気代の明細を見ながら、どの順番で何に手を付けるべきかを一緒に整理することから始めています。
この記事を書いた人
導入事例
様々な自家消費型太陽光発電システムの導入事例もご紹介しております。
是非ご覧ください。
「電気代は上がっているが、屋根の状態や他の設備投資との優先順位を考えると踏み切れない」というご相談をいただきます。12か月分の請求書と30分データをお送りいただければ、値引きがない場合の単価で削減額を試算し、屋根・キュービクルの状態を含めて何から手を付けるべきかを整理してお戻しします。