本稿の目的:離れた場所にある自社施設へ自家発電した電気を送る「自己託送」について、2026年8月時点の制度内容と、自社で使えるかを判断する材料を整理します。
結論:発電できる屋根と電気を使う工場が別の場所にあっても自家消費を成立させられる仕組みですが、2024年2月の指針改正で要件が厳格化され、リースやエネルギーサービス契約による設備調達では使えなくなりました。
最大のリスク:再生可能エネルギー発電促進賦課金(以下、再エネ賦課金)が徴収対象外である点だけを投資回収の根拠にすること。資源エネルギー庁は賦課金の負担の在り方について「必要に応じた検討が必要」と明記しています。
自己託送とは、自社が維持・運用する発電設備でつくった電気を、一般送配電事業者の送配電ネットワークを介して、離れた場所にある自社やグループ会社の施設へ送る仕組みです。電気事業法第2条第1項第5号ロに定められた「接続供給」の一類型で、2013年に制度化されました。
結論から述べます。自社工場の屋根に太陽光が載り切らない、あるいは屋根の形状や強度の問題で載せられないという理由で自家消費型太陽光を見送った企業でも、グループ会社の施設に使える屋根があれば選択肢が残ります。
ただし2024年2月に要件が厳格化され、使える企業の条件は明確に狭まりました。本稿では、制度の骨格、自社が要件に当てはまるかの判定、2024年改正で何ができなくなったか、そして導入前に決めておくべき運用体制までを、資源エネルギー庁および電力広域的運営推進機関の一次資料に基づいて整理します。
自家消費型太陽光発電は通常、電気を使う施設そのものの屋根や敷地に発電設備を設置し、発電した電気を施設内の配線で消費します。これに対して自己託送は、発電設備を別の場所に置き、発電した電気を系統に流して、同じ量を離れた需要地で受け取ります。電気を売っているわけではないため、自己託送のために小売電気事業者としての登録は必要ありません。発電した電気を系統へ流す点は、通常の自家消費では原則として避ける逆潮流と重なりますが、自己託送は制度上それを前提とした仕組みです。両者の考え方の違いは売電型と自家消費型の違いもあわせてご覧ください。
弊社が設計・部材調達・施工を担当した事例を挙げます。新明和工業株式会社様の案件では、グループ会社である新明和オートエンジニアリング株式会社様の特装車部品センター(栃木県佐野市)の屋根にPCS出力450kWの太陽光発電設備を設置し、約5km離れた新明和工業佐野工場と、約146km離れた同社寒川工場へ送電する構成としました。2026年1月より稼働を開始し、年間約237トンのCO2排出削減効果を見込んでいます(詳細はプレスリリースをご覧ください)。
注目していただきたいのは146kmという距離です。送配電ネットワークを使う以上、発電地点と需要地の物理的な距離そのものは制約になりません。制約になるのは、以下に述べる法令上の要件と、日々の運用体制のほうです。
資源エネルギー庁は「自己託送に関するQ&A」(最終更新2024年5月31日)で、自己託送の要件を4つに整理しています。
3つめの「密接な関係」は、「自己託送に係る指針」(令和6年2月12日改正)で6類型が示されています。
| 類型 | 内容 |
|---|---|
| ①生産工程 | 原材料・製品等の受渡しがあり、第三者との受渡しに代替することが困難であること |
| ②資本関係 | 会社法上の親会社と子会社の関係、親会社の子会社どうしの関係、その他これらに準ずる関係 |
| ③人的関係 | 一方から他方へ過半数の役員の派遣がなされていること |
| ④複合判断 | ①〜③が単独では不十分でも、複数を合わせて密接な関係があると判断されること |
| ⑤長期継続取引 | 代替困難な原材料・製品・役務等の提供が長期にわたり継続し、社会通念上一つの企業とみなし得る関係 |
| ⑥組合 | 供給者と相手方が共同して組合を設立する場合(別途4要件あり) |
複数の拠点を持ち、そのいずれかがグループ会社の所有である場合、②の資本関係によって密接な関係の要件を満たす可能性があります。屋根面積の制約で自家消費を諦めた拠点でも、グループ内の別拠点の屋根を使う設計が検討対象になります。
制度が厳しくなった経緯は、資源エネルギー庁の審議会資料(電力・ガス基本政策小委員会 第68回、2023年12月26日)に明記されています。「自己託送による電気の供給には再エネ賦課金が課されないことに着目し、自己託送を積極的に活用する事業者が増加している」一方で、「実態としては他者から電気を調達し他者に供給していると解される案件が多く見受けられる」というものです。
同資料では4つの厳格化案が検討され、設備の所有に関する案と、電気の最終消費者に関する案の2つが採用されました。維持・管理に関する案と、送る電気を余剰分のみに限る案は見送られています。ただし同資料は「更なる要件の厳格化や制度の見直しを排除せず、必要な検討を不断に行う」とも記しています。実務上、できなくなったのは次の調達方法です。
一方で、請負契約に基づいて設置工事を依頼し、完工に伴って所有権が移転する場合は認められます。つまりEPC事業者に設計・調達・施工を発注し、完成した設備を自社資産として保有する形は制度上の想定内です。あわせて、誤って書かれやすい2点を正しておきます。
移行の時期も押さえておく必要があります。2024年1月1日から2月11日まで新規申込みの受付が停止され、2月12日から改正後の指針が適用されました。経過措置として、2023年12月31日以前に接続に係る申込み(特別高圧・高圧は接続検討の申込み)が完了している案件は従前の例によります。申込みにあたっては、自ら設置した設備であることや他に最終消費者が存在しないことを記した宣誓書と、虚偽があった場合の契約解除を受け入れる旨の事前同意が求められます。
自己託送を語るうえで避けて通れないのが再エネ賦課金の扱いです。資源エネルギー庁は前述の審議会資料で「自己託送は自家発自家消費の延長と考えられることなどから、自家発自家消費と同様に再エネ賦課金を徴収する対象となっていない」と説明しています。同じ資料では、オフサイトPPAについて「一般的な小売供給と同様に再エネ賦課金が課されている」と対比されています。
電気料金の内訳における再エネ賦課金の単価は、2026年度は1kWhあたり4.18円です(2026年5月検針分から2027年4月検針分まで適用)。使用電力量が大きい工場ほど、この差は無視できない金額になります。
しかし、この点だけを導入判断の軸に置くことは避けてください。賦課金の扱いは法令に「自己託送は非課税」と明記されているわけではなく、小売供給に該当しないことによる帰結です。そして資源エネルギー庁自身が同じ資料の中で「再エネ賦課金の負担の在り方についても、必要に応じた検討が必要となるのではないか」と記しています。2024年の要件厳格化そのものが、賦課金が課されないことに着目した利用の広がりを契機としていることも押さえておく必要があります。
賦課金の扱いだけを前提にした投資回収計画は、制度が動いたときに根拠が崩れます。電力量あたりの調達コスト削減とCO2排出削減という本体の効果だけで採算が成り立つかを、先に確認しておくことをおすすめします。
弊社は、外部から環境価値を購入する前に、まず使う電気そのものと、系統から購入する電力量を減らすことを提案の順序としています。自己託送は、この「購入する電力量を減らす」手段の一つとして位置づけられるものです。
自己託送で見落とされやすいのが、電気を送るだけでなく「送る量を計画して当てにいく」義務が伴う点です。電力広域的運営推進機関(OCCTO)の手続きガイド(2025年7月)によれば、自己託送を行う事業者は需要調達計画と発電販売計画の両方を、年間・月間・週間・翌日・当日という5つの粒度で提出する必要があります。同時同量の種別は新規申請時に「計画値」で固定され、選択の余地はありません。
一般送配電事業者側も、基本契約の前に計画値同時同量を守れるかどうかを審査します。東京電力パワーグリッド様が公開している自己託送の申込み案内には、発電予測方法や天候急変時の対応体制の説明を求める記載とともに、「インバランス発生ありきでの事業計画はお受けかねます」と明記されています。太陽光のような自然変動電源で、かつ供給地点数が限られる自己託送では、地点間で過不足を相殺しにくいという構造的な難しさがあるためです。
時間軸も現実的に見ておく必要があります。要件確認(事前相談)を経て基本契約の申込み以降だけでも約2か月を要し、これとは別に系統連系の接続検討の期間が必要です。エリアをまたいで送電する場合は、特定託送コードを適用開始日の45日前までに申請し、日本卸電力取引所(JEPX)の取引会員になることなどが求められます。
検討にあたっては、設備投資の可否と同時に「日々の計画提出を社内の誰が回すのか」を論点に含めておくことをおすすめします。これは設備の話ではなく運用体制の話であり、稼働後に恒常的に発生する業務だからです。
そして、検討を始めるにあたって最初に必要になる材料は、発電側ではなく需要側にあります。電気を使う拠点の30分ごとの使用電力量データ(30分値)12か月分と、電気料金明細12か月分です。これが揃わないと、どの規模の設備が適正かという試算そのものが始まりません。実際の案件でも、この段階で時間がかかることは珍しくありません。増設や稼働状況の変化があった拠点では、直近のデータが実態を表していないこともあります。
もう一点、意思決定者が拠点をまたいで分散する点も先に想定しておくとよいでしょう。発電設備を置く施設、電気を使う工場、そして本社の三者で合意形成が必要になるため、工場長の判断だけでは進みません。
いいえ、外部委託そのもので自己託送が否定されることはありません。2024年の見直しで維持・管理に関する要件案は検討されましたが、見送られています(資源エネルギー庁Q&A Q5)。ただし維持運用の実態を伴わないまま名義上の管理責任者として申告する形は認められません。
組合を設立する類型では新たに設置した設備であることが要件とされ、稼働中の設備やFIT買取期間が満了した設備は対象外です(Q&A Q15)。資本関係等がある類型では、この新設要件は組合の要件として置かれています。個別の可否は一般送配電事業者への事前相談でご確認ください。
共同で組合を設立する類型があります。組合契約書に長期存続の旨・電気料金の決定方法・送配電設備の工事費用の負担方法が明記されていることなどが要件です。対象は民法上の組合や有限責任事業組合(LLP)で、匿名組合・中小企業等協同組合は対象外とされています(Q&A Q13)。組合員が新たに設置した非FITの再生可能エネルギー発電設備であることも求められます。
弊社は自家消費型太陽光発電設備の設計・調達・施工(EPC)を担う立場から、需要側のデータをもとにした設備規模の検討や、自己託送を含む選択肢の比較整理をお手伝いしています。制度手続きや契約面については、それぞれの専門領域を担うパートナーと連携して進めます。
※本稿は資源エネルギー庁「自己託送に係る指針」(令和6年2月12日改正)、同「自己託送に関するQ&A」(2024年5月31日更新)、電力・ガス基本政策小委員会 第68回資料(2023年12月26日)、電力広域的運営推進機関「自己託送を開始する方の手続き」(2025年7月)および東京電力パワーグリッド株式会社の公開資料に基づき、2026年8月時点で整理したものです。個別案件の可否は各機関の最新の公表資料と一般送配電事業者への事前相談でご確認ください。