A. 電磁波の主な発生源は直流を交流に変換するパワーコンディショナで、本記事が扱うのは東日本50Hz・西日本60Hzの商用周波数の磁界です。環境省がまとめた測定例では機器表面で最大61.9マイクロテスラと、公衆のばく露に関する国際的な指針値200マイクロテスラを下回っています。パネル自体は無音ですが、測定例は全機種・全設置条件の上限ではないため、実際の影響は機種と設置条件に応じて確認します。
判断の要点
- 電磁波の主な発生源はパワーコンディショナ(PCS)です。インバータは高調波なども出しますが、本記事で200マイクロテスラの参考レベルと比較するのは東日本50Hz・西日本60Hzの商用周波数の磁界です。2.4GHz帯を使う家庭用Wi-Fi機器とは周波数の桁が異なります
- 環境省の資料では、パワーコンディショナなどが発する商用周波数の電磁界は0Hzより大きく300Hzまでの「超低周波電磁界」に分類されます。国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が公衆のばく露について示す指針値は50Hz・60Hzで200マイクロテスラで、経済産業省は2011年にこの値を電気設備の技術基準に規制値として取り入れました
- 環境省が引用する測定例では、太陽電池モジュールの静磁界が測定距離0.2mで最大8.33マイクロテスラ、パワーコンディショナの超低周波磁界が測定距離0mで最大61.9マイクロテスラでした。この測定では距離とともに小さくなることが確認されています
- パネル自体は無音です。パワーコンディショナの動作音は機種・出力規模・設置環境によって異なり、一律の数値では判断できません。メーカーが公表する騒音値と、設置位置から敷地境界までの距離が判断材料になります
- 工事中はインパクトドライバーなどの音が一時的に発生します。作業時間帯の調整、夜間作業は原則として行わない運用、工事前の近隣への説明で対応しています
電磁波の主な発生源はパワーコンディショナ(PCS)
太陽光発電システムには、太陽光パネルのほかにパワーコンディショナ(PCS)などの電気設備が含まれます。このうち電磁波の主な発生源となるのが、発電された直流電気を交流に変換するパワーコンディショナです。インバータと呼ばれることもあります。
ここで生じる電磁界のうち、本記事が扱うのは東日本では50Hz、西日本では60Hzという商用周波数の磁界です。インバータは高調波などの成分も出しますが、公的資料で参考レベルと比較されているのはこの商用周波数の磁界です。
「工業用の機器だから家庭用より強い電磁波が出ているのではないか」という疑問を持たれることがあります。環境省の同じ資料では、家電製品から発生する磁界の国際的なガイドラインに対する比率として、電気マッサージ器で最大68%(測定距離0cm)、電動歯ブラシと充電器で最大46%(同0cm)、温水洗浄便座で最大18%(同0cm)という測定例が示されています。パワーコンディショナの61.9マイクロテスラは指針値200マイクロテスラの約31%にあたりますが、家電は別の測定規格(IEC 62233)で測られているため厳密な比較はできません。いずれも国際的な指針値を下回る水準という点が共通しています。
家庭用Wi-Fiとの比較で見る周波数の違い
本記事が扱う商用周波数の磁界と、身近な機器の周波数帯を並べると次のようになります。2.4GHz帯を使用する家庭用Wi-Fi機器は、これより高い周波数帯で動作しています。
| 機器 | 周波数帯 |
|---|---|
| パワーコンディショナ(商用周波数の磁界) | 東日本50Hz/西日本60Hz(低周波) |
| 2.4GHz帯を使う家庭用Wi-Fi機器の例 | 2.4GHz(高周波) |
周波数の桁がまったく異なることからも、ここで扱う商用周波数の磁界の周波数がいかに低いかが分かります。
ただし、周波数が低いから人体に影響がない(高いから影響がある)という単純なものではありません。電磁界は周波数と強さの組み合わせで評価されます。本記事で紹介する商用周波数磁界の測定例は、次章のとおり国際的な参考レベルを下回っていますが、これは特定の測定例についての比較であり、すべての設備の健康影響を一律に結論づけるものではありません。
人体への影響はどう評価されているか|実測値と指針値200マイクロテスラの比較
環境省「身のまわりの電磁界について」(令和5年3月)によると、太陽光発電のパワーコンディショナなどが発する商用周波数の電磁界は、0Hzより大きく300Hzまでの「超低周波電磁界」に分類されます。同資料では「電磁波」ではなく「電磁界」という語が使われています。
同資料は、太陽光発電システムの磁界について次の測定例を挙げています(出典は電磁界情報センター「太陽光発電システムから発生する静磁界及び商用周波数磁界」2011年)。
| 測定対象 | 磁束密度の最大値 | 測定距離 |
|---|---|---|
| 太陽電池モジュール(静磁界) | 8.33マイクロテスラ | 0.2m |
| パワーコンディショナ(超低周波磁界) | 61.9マイクロテスラ | 0m |
比較の基準になるのが、国際非電離放射線防護委員会(ICNIRP)が公衆のばく露について示している指針値(参考レベル)です。超低周波磁界では50Hz・60Hzとも200マイクロテスラで、機器表面(0m)で測定された61.9マイクロテスラでも、この指針値の3分の1程度にとどまります。電磁界情報センターの公表資料では、パワーコンディショナから0.2m離れた位置での実測最大値は7.49マイクロテスラとされています。
世界保健機関(WHO)は、電磁界の健康影響について「これまでに実施されたすべてのレビューは、0-300 GHzの周波数を網羅するICNIRPのガイドラインで推奨されている限度値よりも低いばく露は健康への悪影響を何ら生じない、ということを示しています」との見解を示しています(環境省資料に掲載の訳文より)。同時に「より良い健康リスク評価の前に埋める必要がある知識のギャップが依然としてあります」とも述べています。
なお国際がん研究機関(IARC)は2002年、超低周波磁界を「発がん性があるかもしれない」(グループ2B)と分類しています。これは生活環境での0.3〜0.4マイクロテスラを超えるばく露と小児白血病のリスク増加との関連を示す疫学研究があることによるものです。この0.3〜0.4マイクロテスラは疫学研究で関連が見られた水準であって規制値ではなく、200マイクロテスラの参考レベルとは評価の目的もばく露条件も異なります。WHOはこれについて「全体として、小児白血病に関連する証拠は因果関係と見なせるほど強いものではない」との見解を示しています。分類の考え方や規制の位置づけの詳細は、環境省「身のまわりの電磁界について」(令和5年3月)をご確認ください。
国内の規制と、事業所に置く設備の位置づけ
磁界の規制は、経済産業省が2011年に「電気設備に関する技術基準を定める省令」を一部改正し、ICNIRPの指針値を規制値として取り入れたものです。同省令第27条の2は、変圧器・開閉器などや電線路について、人によって占められる空間に相当する空間の磁束密度の平均値が「商用周波数において二百マイクロテスラ以下になるように施設しなければならない」と定めています。
ただし第27条の2第1項が対象にしているのは、これらを「発電所、蓄電所、変電所、開閉所及び需要場所以外の場所に施設するに当たって」の場合で、第2項の対象は変電所と開閉所です。工場や事業所の構内(需要場所)に設置するパワーコンディショナやキュービクルは、この条文が直接規制する対象ではありません。それでも判断の物差しになるのは同じICNIRPの指針値で、パワーコンディショナの商用周波数磁界の測定例(0mで最大61.9マイクロテスラ)はこの参考レベルを下回っています。なお太陽電池モジュールの8.33マイクロテスラは静磁界の値で、200マイクロテスラは商用周波数の磁界に対する参考レベルであるため、そのまま比較する対象ではありません。
騒音についても、国の騒音規制法が定める「特定施設」は、金属加工機械・空気圧縮機・送風機・織機・木材加工機械など施行令別表第1の11区分で、パワーコンディショナは含まれていません。屋根への固定に使うインパクトドライバーでの作業自体も、同令別表第2の「特定建設作業」(くい打機・さく岩機・ブルドーザーなど8作業)には当たりません。工事全体の該当性は、実際に使う機械と作業内容で確認します。
ただし、パワーコンディショナが特定施設でないことは、事業場全体が騒音規制の対象外になることを意味しません。同法第2条第2項は、規制基準を「特定施設を設置する工場又は事業場(以下「特定工場等」という。)において発生する騒音の特定工場等の敷地の境界線における大きさの許容限度」と定めています。指定地域内で他の特定施設を持つ工場であれば、敷地境界での騒音にパワーコンディショナの音も含まれることになります。都道府県・市町村の条例で独自の規制が設けられている場合もあるため、設置前に所在地の指定状況と条例を確認します。
騒音はパネルが無音、パワーコンディショナの動作音は機種と設置環境で変わる
騒音については、太陽光パネル自体は無音です。パワーコンディショナには動作音がありますが、その大きさは機種・出力規模・設置場所で変わるため、一律に「気にならない」と言い切れるものではありません。判断の材料になるのはメーカーが公表する騒音値と、設置位置から敷地境界までの距離です。
ただしパワーコンディショナの稼働音は、機種や出力規模、設置環境によって差が大きく、一律の数値でお伝えすることは適切ではありません。
機種や設置場所によって稼働音の影響が異なるため、設計段階で確認することが重要です。太陽光発電の設計とは何なのかは太陽光発電の「Engineering(設計)」とは何なのか?で解説しています。
周辺環境への影響と、設置場所の選び方
影響の出方は設置場所や製品の種類によって変わります。音が気になりやすい環境では、機器の設置位置や建物・壁からの距離、遮音を考えた配置で影響を抑える設計が可能です。
また、不快感には、音の大きさなどに加え、設備への不安が関係する場合もあります。「気になり始めると、ますます気になる」といった心理的な要因による反応も考えられます。完全に音や電磁波がゼロというわけではないため、設置場所や製品の選定では、周辺の環境もあわせて検討します。
設置する屋根の条件によって選べる設置場所は変わります。屋根の形状と設置の関係は屋根上太陽光発電設備の設置 | “形状が重要?”埼玉県の事例から分かる“向いていない”屋根とは?で解説しています。
現場担当者の視点(事業部長 折原への取材より)
――太陽光発電の工事では、特別に大きな音が出るのでしょうか?
太陽光発電だから特別に大きな音が出るということはなく、一般的な建築工事と同様に、工具の作動音や振動が一時的に発生します。
――工事中の音について、周辺から要望があった場合はどう対応していますか?
たとえば、屋根に金具やパネルを固定する際に使用するインパクトドライバーでは、ある程度大きな音が発生します。そのため、「業務のピーク時間帯を避けてほしい」といったご要望があれば、事前に調整して作業時間を変更するなど、柔軟に対応しています。
――夜間の作業や、近隣への事前の説明はどうしていますか?
また、夜間に作業を行うことは原則としてありません。工事前には、近隣の方への事前説明や挨拶を行い、理解とご協力を得たうえで工事を進めるようにしています。
恒電社では、工事前に近隣の方への事前説明や挨拶を行っています。作業時間帯についてご要望がある場合は、事前に調整し、作業時間を変更するなど柔軟に対応することで、周囲への影響を最小限に抑えています。
解説者
折原 恭平
インタビュアー
原澤耀
2022年から恒電社のマーケティングも担当し、電気や太陽光発電のことを、各関連分野のエキスパートに直接ヒアリングをしながら、できる限り分かりやすい表現と専門的な視点の両立を重視した情報発信に取り組んでいる。
よくある質問(FAQ)
Q1. パワーコンディショナの騒音値は、どこで確認できますか?
メーカーカタログに記載の騒音値をご確認ください。設置予定地の環境によっても影響は変わるため、導入をご検討の際は、環境に応じた影響を個別にご確認いただくことをおすすめします。
Q2. 太陽光パネルの設置は、建物の外観にも影響しますか?
電磁波や騒音とは別の観点になります。外観やデザイン性への影響は太陽光パネルの設置によって、建物の外観やデザイン性に影響が出ることはあるのかで解説しています。
Q3. 施工期間中、工場や事業所の通常業務に支障は出ますか?
工事に伴う工具の作動音や振動は一時的なものです。業務のピーク時間帯を避けたいといったご要望がある場合は、事前に調整し、作業時間を変更するなど柔軟に対応しています。施工期間中の通常業務への影響は太陽光発電設備の施工期間中に、工場や事業所の通常業務に支障が出ることはあるのかで解説しています。
電磁波や騒音について近隣や社内から質問が出たときは、数値と測定条件を示して説明することが大切です。機種ごとの騒音値の確認方法や設置場所の選び方、近隣への事前説明の進め方など、導入前の懸念からご相談いただけます。
この記事を書いた人
岩見啓明

