本稿の目的:「非化石証書を買っているから脱炭素対応は万全」という認識に潜むリスクを、GHGプロトコル(温室効果ガス排出量算定の国際基準)のスコープ2改訂の動きから整理します。
結論:国際的な算定ルールの改定協議では、発電と使用の「時間の一致」や「供給可能な地域からの調達」が提案されており、FIT(固定価格買取制度)由来の証書の利用に上限を設ける案も報じられています(いずれも2026年8月時点で未確定)。証書購入だけに頼った脱炭素対応は、こうした見直しのリスクにさらされます。
見落としがちなリスク:ルール改訂を知らずに証書購入だけで対応を続けていると、将来の報告年度に従来と同じ方法では基準を満たせなくなり、調達方法や算定方法の見直しを迫られる可能性があります。
自社の温室効果ガス排出量を算定・開示する際、多くの企業が「スコープ1・2・3」という区分を使います。このうちスコープ2は、自社が購入した電気を使うことで間接的に発生する排出量を指します。工場や倉庫で使う電力の排出量は、まさにこのスコープ2に分類されます。
このスコープ2の算定方法を定めているのが、国際的に広く使われているGHGプロトコルという基準です。企業が「うちは再エネ電力を使っているので排出量ゼロです」と主張する際の拠り所になっている仕組みでもあります。
このGHGプロトコルのスコープ2算定ルールは、いま改訂の作業が進んでいます。2025年の公開協議案で主な論点として示されたのが、発電と使用の「時間の一致」と「供給可能な地域からの調達」で、あわせてFIT(固定価格買取制度)由来の非化石証書の扱いに制約を設ける案も報じられています(協議結果を受けて、内容は現在も再検討中です)。さらに2026年7月には、GHGプロトコルとISOが企業向け基準を単一の共同基準へ統合する方針と、統合企業基準を2028年第4四半期に公表する新たな開発日程が発表されました。これまで「証書を買えば再エネ電力を使っている実質」として扱われてきた前提が、部分的に見直される可能性があるということです。
あらかじめお伝えしたいのは、証書の位置づけです。恒電社では、脱炭素への取り組みを「外から環境価値を買う前に、まず使う電気と購入する電気を減らす」という4段階の順序で考えることをおすすめしており、非化石証書などの環境価値の購入は、省エネ・自家消費・外部からの再エネ調達を検討したあとに残る分を補う「第4段階(最後の調整弁)」と位置づけています。証書を最初の一手にしてしまうと、この記事で解説する2つのリスク——国際ルールの見直しと、需給変化に伴う価格変動・中長期的な上昇リスク——を真正面から受けることになります。

この記事では、改訂の中身と時期、「時間ごとの一致(アワリーマッチング)」という新しい考え方、証書価格の実態と今後の見通し、そして自家消費型太陽光発電がなぜこのリスクへの備えになるのかを、専門用語をかみ砕きながら整理します。
おさらい:非化石証書とは何か
非化石証書は、太陽光や風力、原子力など「非化石電源」で発電された電気が持つ「環境価値」を、電気そのものの価値と切り離して取引する仕組みです。企業は電力会社から通常どおり電気を購入しつつ、再エネ指定の非化石証書など、利用する制度・イニシアチブの品質要件を満たす証書を必要量確保することで、「実質的に再エネ電力を使った」という扱いを得られる場合があります。
制度の詳しい仕組み・種類(FIT非化石証書/非FIT非化石証書等)については、非化石証書とは?環境価値を売買できる仕組みを解説で詳しく解説していますので、あわせてご参照ください。この記事でも触れられている通り、証書市場には需給ひっ迫・価格上昇のリスクが指摘されています。今回取り上げるGHGプロトコルの改訂案は、その内容によっては利用できる証書の範囲や調達方法に影響し、こうした需給・価格のリスクを強める可能性があります。
なぜ今、証書の扱いが見直されているのか — GHGプロトコル スコープ2改訂の背景
GHGプロトコルは、WRI(世界資源研究所)とWBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)が策定・運用する、企業の温室効果ガス排出量算定における事実上の世界標準です。SBTやRE100など多くの国際的なイニシアチブが参照しているため、これらに取り組む日本企業や、取引先から排出量の開示を求められる企業にとっても無関係ではありません。
このGHGプロトコルのスコープ2ガイダンスについて、2025年10月から2026年1月末まで公開協議(パブリックコンサルテーション)が行われ、56か国から約1,100件の回答が寄せられました(GHGプロトコルの2026年7月公表値)。そして2026年7月29日、GHGプロトコルはISO(国際標準化機構)と企業向けの基準を統合する新しい日程を発表し、統合された基準の公開協議は2027年第2四半期、統合企業基準の公表は2028年第4四半期の予定とされています。従来は2026年中の追加協議や2027年末の最終化が想定されていましたが、この公式発表で日程が改定されました。

2025年の公開協議案で、GHGプロトコルの公式資料が主な論点として示したのは、大きく次の2点です。
- 「アワリーマッチング(時間一致)」の要求:これまでは年間単位で「使用量と同量の証書を確保していればよい」という考え方が一般的でしたが、改訂案では、発電のタイミングと電力を使用するタイミングをより細かい時間単位で一致させることが提案されています。夜間に稼働する工場が昼間発電の太陽光由来証書だけで対応する、といったやり方の説得力が薄れていく可能性があります(詳しくは次のセクションで解説します)
- 「デリバラビリティ(供給可能性)」の要求:電力を使用する地点との間で、送電上の供給可能性を満たす調達を求める考え方です。具体的な地域の区分や適用方法は協議中です
これに加えて、公的支援を受けた電源(FIT/FIP由来)の証書利用に一定の上限を設ける案が改定協議の中で示されていると報じられています(日経GX・2025年10月報道)。FIT非化石証書は国内で広く利用されているため、仮に利用上限がかかれば「証書を必要量確保しておけば安心」という前提そのものが揺らぐことになります。ただし、この上限案は公式に確定した改定内容ではなく、上限値・適用時期とも未確定です。
整理すると、時間一致とデリバラビリティはGHGプロトコル公式の公開協議案、FIT/FIP由来証書の上限は改定案をめぐる報道情報であり、いずれも未確定です。2025年の提案時点でも、GHGプロトコルはすべての提案が公開協議の対象であると明記していました。第1次協議が終わった現在は、寄せられた意見を踏まえて複数の報告アプローチが検討されている段階です。具体的な上限値・適用開始の詳細な時期・日本国内の制度(SBT・RE100等)への反映方法までは、2026年8月時点でまだ確定していません。確定情報は今後の公表を待つ必要がありますが、方向性としての警戒は必要な段階にきています。
「証書を買っておけば当面は大丈夫」という前提で環境価値の調達を進めている企業ほど、今後の制度変更による手戻りのリスクが大きくなります。改訂の確定を待つのではなく、いまのうちからリスクを織り込んで検討しておく必要があります。
「1年分の合計」から「時間ごとの一致」へ──アワリーマッチングとは
改訂の柱の1つ目に挙げた「アワリーマッチング(時間一致)」は、初めて聞く方も多い言葉だと思いますので、少しかみ砕いて説明します。
現在のルールでは、証書による再エネの主張は「年間の合計」で考えるのが一般的です。たとえば1年間で100万kWhの電気を使った工場が、必要な品質要件を満たす証書を年間使用量に対応する分だけ確保すれば、年間単位の算定では再エネ調達として扱える、という整理です。家計簿にたとえると、「1年分の収支の合計さえ合っていればよい」という考え方です。
これに対してアワリーマッチングは、電気を使ったその時間に、実際に再エネが発電されていたかを問います。太陽光は夜間に発電しませんから、夜間に稼働する工場が「昼間に発電された太陽光由来の証書」を買っても、時間単位で見れば使った電気と発電された電気は一致していない——この不一致を算定のうえでも正しく扱おう、という発想です。

GHGプロトコルが2025年10月に公表した解説では、この提案の狙いとして、算定の正確性を高めること、再エネがまだ足りない時間帯・場所に価格のシグナルを生み、新しい技術への投資を促すことが挙げられています。同時に、段階的な導入や、時間単位のデータがまだ整っていない場合の代替措置、小規模な組織の免除といった実行可能性への配慮も、あわせて提案されています。2026年7月の協議結果の公表では、再エネ調達の算定方法について幅広い意見が寄せられたことを受け、複数の報告アプローチが検討されていることも示されました。
この「時間一致」の考え方は、改訂の確定を待たずに国際的な潮流になりつつあります。国連の「24/7カーボンフリーエネルギー・コンパクト」には大手企業や政府が署名しており、たとえばGoogle様は2030年までに事業運営を24時間365日カーボンフリー電力でまかなう目標を2020年に公表、Microsoft様も2030年に向けた同様の目標を掲げています。一部の先進企業は、算定ルール改定の確定を待たずに、「使うその時間にきれいな電気を使う」24/7カーボンフリーを自主目標として掲げ始めています。
ここで押さえておきたいのが、自家消費型太陽光発電との関係です。屋根で発電した電気をその場で使う自家消費は、発電と使用が同じ時間・同じ場所で起きているため、時間一致の考え方と相性のよい脱炭素手段の1つです。昼間の操業が中心の工場・倉庫であれば、昼間の発電と使用が同時に生じる自家消費は、現在提案されている時間一致の考え方と整合しやすい手段といえます。
「証書だけ」に頼ることの構造的なリスク
なぜ証書購入だけに頼ることがリスクになるのか、整理すると次の3点に集約されます。
- 制度が変わればルールも変わる:証書は「取引ルール」の上に成り立つ仕組みです。ルールを決めるのは基準策定団体や各国政府・制度運営者であって自社ではなく、企業側にコントロールできない部分が大きいということです
- 需給がひっ迫すれば価格が上がりやすい:証書は市場で取引されるため、需要が供給を上回れば、一般に価格への上昇圧力がかかります。改訂によって使える証書の範囲が狭まれば、残った証書への需要が集中し、価格上昇に拍車がかかる可能性があります
- 「買った実績」は「発電した実績」ではない:証書購入は、系統の電気とは別に環境価値を調達して算定・開示に反映する手段であって、自社の敷地内で実際にクリーンな電気を発電したことを意味するものではありません。制度側の定義が変われば、同じ証書でも評価のされ方が変わり得ます
これに対して、自社の敷地内で太陽光発電を行い、その電気をそのまま使う「自家消費」は、発電した電気を使っているという事実そのものが変わりません(その環境価値を自社に帰属させ、必要な計量・記録を確保していることが前提です)。これが、証書購入と自家消費の根本的な違いです。
取引先からどう見えるか──「追加性」という論点
もう1つ、知っておきたい言葉が「追加性」です。追加性とは、その調達が新しい再エネ設備への投資や導入を後押しし、その取り組みがなければ起きにくかった変化を生むか、という観点です。すでに存在する発電所の環境価値を証書として短期的に買うだけでは、新しい発電所への投資に寄与したことを示しにくい場合がある——そういう指摘が国際的な議論の中にあります。
実際、再エネ100%を目指す国際イニシアチブのRE100は、2022年10月の技術要件の改定で、調達する再エネに「運転開始から15年以内の電源」を原則とする条件を加えるなど、要件を厳しくする方向で見直しを続けています。また環境省も、カーボン・クレジットによるオフセットだけでカーボンニュートラルを主張するような表示に対して、グリーンウォッシュ(見せかけの環境配慮)と受け取られかねないという国際的な規制動向を紹介しています(2024年10月公表資料)。
取引先や評価機関から「実際に何をしているのか」を問われたとき、証書の購入実績だけで答えるのと、自社の屋根で発電している事実を示せるのとでは、説明の説得力が変わってきます。
証書価格はどう動いているか — JEPXオークション結果が示す実態
日本卸電力取引所(JEPX)が運営する非化石価値取引市場では、年4回(8月・11月・2月・5月)のオークションで非化石証書の価格が決まります。実績を見ると、価格の動きは証書の区分・指標によって分かれており、非FIT証書での上限価格約定など、需給の変化を注視すべき結果もみられます。
FIT非化石証書の約定最高価格は、2023年8月時点の0.4円/kWhという最低水準から、2025年5月のオークションでは4.00円/kWhへと、約1年9か月で10倍に上昇しました。ただし、この「10倍」は市場に出た証書の中で最も高く取引された価格(約定最高価格)であり、市場全体の実勢を示す指標ではありません。実際に多くの取引が成立する水準に近い約定加重平均価格で見ると、2025年5月のオークションで0.65〜0.67円/kWh(分析元により集計にわずかな幅があります)という過去最高値を記録しており、これは2023年8月頃の最低水準(0.4円/kWh)と比べて約1.6〜1.7倍の上昇です。「最高値は10倍・実勢価格でも6〜7割増」という両方の見方を押さえておくことが、社内説明での正確性につながります。
| オークション実施時期 |
FIT非化石証書約定最高価格 |
備考 |
|---|---|---|
| 2023年8月 | 0.4円/kWh | 制度上の最低水準が続いていた時期 |
| 2024年2月頃 | 1.0円/kWh | 最低価格は0.4円/kWhのまま |
| 2024年8月 | 0.61円/kWh | 約定量は約143.7億kWh |
| 2024年11月 | 0.6円/kWh | |
| 2025年2月 | 1.00円/kWh | |
| 2025年5月 | 4.00円/kWh | 加重平均0.65〜0.67円/kWh(過去最高)・約定量約190億kWh(過去最大) |
非FIT非化石証書(再エネ指定あり)についても、2024年11月の0.60円/kWhから、2025年2月・5月には1.30円/kWhへと、半年余りで倍以上に上昇しています。さらに直近の2025年度第4回オークション(2026年5月実施)では、非FIT証書が「再エネ指定あり・なし」の双方とも上限価格の1.30円/kWhで全量約定した、という分析も報告されています。同分析は、これを需要の強さを示す結果と評価しています。一方、同じ分析では、このオークションのFIT証書の加重平均価格は0.44円/kWhと、2025年5月の高値(0.65〜0.67円/kWh)からは低下したことも報告されています。つまり価格は一本調子の上昇ではなく、区分や指標によって動きが分かれている、というのが直近の実態です。
これらの数値データは、JEPXが公表する非化石価値取引市場の実績を基にした複数の業界分析で一致して報告されている内容です(出典は記事末尾にまとめて記載)。
なぜ中長期的な価格上昇が懸念されるのか — 需給バランスから見る構造
中長期的な価格上昇圧力の背景として、業界分析では需要側・供給側それぞれに構造的な要因が挙げられています。「これから証書だけで足りるのか」を判断するうえで、この需給構造まで押さえておくと見通しが立てやすくなります。
需要側 — 証書を必要とする量は今後も増える見通し
- 高度化法(エネルギー供給構造高度化法)の目標引き上げ:年間販売電力量5億kWh超の小売電気事業者に非化石電源比率の目標達成を義務づける制度で、目標は第1フェーズ(2020〜2022年度)22%以上→第2フェーズ(2023〜2025年度)28%以上と段階的に引き上げられてきました。国の「2040年度エネルギー需給見通し」に基づき、2040年度には60%以上という目標も示されており、対象の小売電気事業者はより多くの非化石証書の確保が必要になる見通しです
- GX-ETS(GHG排出量取引制度)の本格稼働:2026年度から本格稼働する見通しで、スコープ2の削減手段として非化石証書の活用が想定されています。制度対応が必要な企業が増えれば、証書需要はさらに広がります
- RE100等の国際イニシアチブ:本稿のテーマであるGHGプロトコルの改訂に加え、RE100の要件自体も厳格化の方向にあり、証書需要の増加や、要件を満たす証書への需要集中が見込まれます
供給側 — 証書の供給量は伸び悩む見通し(以下は、記事末尾に掲げた業界分析で指摘されている要因です)
- FIT電源の新規認定件数の減少:2010年代半ばの認定ラッシュ以降、FIT電源の新規認定件数は減少傾向にあると指摘されています。FIT非化石証書はFIT電源の発電量に紐づくため、供給の伸びしろ自体が限られるという見方です
- 大手電力会社による売り控え:大手電力会社が自社の高度化法目標達成を優先し、証書市場への売り入札量を抑える動きがあるとの分析があります。これは市場に出回る証書の量そのものを減らす方向に働きます
- 非FIT証書(大型水力・卒FIT電源等)の供給源の限定性:大型水力や卒FIT電源による非FIT証書は、供給源となる電源自体が限られている上、天候等により発電量が年ごとに変動するという指摘が業界分析でなされています
この需要増・供給伸び悩みという組み合わせが、中長期的な価格上昇圧力の背景として業界分析で挙げられている構造です。GHGプロトコルの改訂協議でFIT由来証書の利用上限案も報じられている中、仮に使える証書の範囲が狭まれば、残った証書(非FIT証書等)への需要はさらに集中しやすくなります。
業界試算:2028年頃に需給が逆転する可能性
この需給構造を裏付ける業界試算があります。電力・環境価値プラットフォーム事業を手がけるデジタルグリッド株式会社様が「RE-Usersサミット2025」(2025年6月10日)で発表した資料によると、FIT非化石証書の需給バランス(供給量-需要量)は次のように推移すると試算されています(同資料が「15年超」の電源を供給から除外して試算したものです)。
| 年 | 需給バランス(供給量-需要量、億kWh) |
|---|---|
| 2023年(実績) | +913(供給過剰) |
| 2024年(実績) | +661(供給過剰) |
| 2025年(予想) | +401 |
| 2026年(予想) | +276 |
| 2027年(予想) | +112 |
| 2028年(予想) | ▲145(需給逆転) |
| 2029年(予想) | ▲465 |
| 2030年(予想) | ▲816 |

この試算では、2028年頃の断面でFIT非化石証書の需給が逆転する可能性があるとされています。これに連動する形で、同資料は価格についても2つのシナリオ(ソフトランディング/ハードランディング)を試算しており、同資料が価格試算の基準として示す2023〜2025年の0.4円/kWh(前述のJEPX約定最高価格・加重平均価格とは指標が異なります)に対し、2028年には2.2〜2.5円/kWh、2030年には3.3〜4.0円/kWh程度まで上昇する可能性があるとしています。
あわせて、直近の実績としてFIT非化石証書オークションの約定量・約定率も急増しています。同資料によれば、約定量は2022年度第1回の33億kWh(約定率12.3%)から、2024年度第4回には191億kWh(約定率65.2%)へと約5.8倍に拡大しています(本稿で先述したJEPX価格実績データとあわせて、量・価格の一部指標に変化がみられ、将来の需給を注視する材料になります)。
これらはあくまで一民間企業による試算・予測であり、確定した将来像ではありません。しかし、需要側・供給側双方の構造要因(前述)を踏まえ、デジタルグリッド株式会社様などの業界分析では中期的な需給ひっ迫の可能性が指摘されていることは、社内検討の材料として押さえておく価値があります。
恒電社が考える脱炭素の順序 — 「まず減らす」が先
恒電社では、脱炭素に向けた取り組みを検討する際、「外から環境価値を買う前に、まず自社が使う電気・購入する電気そのものを減らす」ことを優先する考え方をお客様にお伝えしています。
具体的には、次のような順序で検討することをおすすめしています。
- 省エネ・使用量削減:設備更新や運用改善で、そもそも使う電力量そのものを減らす
- 自家消費:敷地内・屋根上に太陽光発電設備を導入し、発電した電気をその場で使うことで、系統から受ける電力量・購入電力量を減らす
- 外部からの再エネ調達(オフサイトPPA等):自社敷地だけでは足りない分を、外部の再エネ電源から調達する
- 環境価値(証書等)の活用:それでも埋まらない部分について、非化石証書等の環境価値を活用する——本記事のテーマである証書は、この第4段階に位置づけられます

証書の活用そのものを否定しているわけではありません。大切なのは順序です。証書はあくまで「最後の調整弁」であり、最初から証書だけで脱炭素を完結させようとすると、今回のような制度変更の影響を真正面から受けることになります。外部の再エネ調達・環境価値の活用については、恒電社が要点を整理したうえで専門パートナーへおつなぎし、検討の順序の全体整理をお手伝いしています。
自家消費型太陽光発電が「証書リスク」への備えになる理由
屋根や敷地にまとまった面積を確保できる工場・倉庫であれば、自家消費型太陽光発電の導入によって、購入電力量そのものを大きく減らせる可能性があります。自家消費した電力という物理的実績が残り、環境価値を自社に帰属させたうえで必要な計量・記録を確保できるため、証書の利用要件変更の影響を比較的受けにくい、自社で管理しやすい対策です。前述のとおり、発電と使用が同じ時間・同じ場所で起きる自家消費は、アワリーマッチング(時間一致)の潮流とも整合しやすい手段です。
屋根を活用した自家消費の実例は、武州製氷株式会社様の導入事例で紹介しています。さらに、自家消費は「購入する電力量そのものを減らす」ことによる電気代削減効果も同時に見込めます。証書購入がコスト(環境価値を買うための追加支出)であるのに対し、自家消費は購入電力量の削減によるコスト削減でもあるという点が、経営判断上の大きな違いです。
「環境価値を買う」というコスト増の手段と、「購入電力を減らす」というコスト削減の手段を、同時に検討できる——これが自家消費型太陽光発電を検討する際の、最も分かりやすい切り口になります。
ただし、証書購入にも「初期投資が要らない」「短期間で調達を柔軟に増減できる」という利点があることは公平に見ておくべきです。自家消費型太陽光発電を自己所有で導入する場合は設備投資となるため、証書購入と違って導入までの検討期間・初期費用がかかります(オンサイトPPA等、費用構造が異なる導入形態もあります)。屋根の耐荷重や賃貸物件かどうかといった物理的な制約で、自家消費という選択肢自体が取りにくいケースもあります。「証書はもう使えない」という単純な話ではなく、両者を状況に応じて使い分ける発想が実務的です。
| 比較軸 | 非化石証書の購入 | 自家消費型太陽光発電 |
|---|---|---|
| 初期投資 | 設備の初期投資は原則不要(証書の購入費が中心) | 必要(設備投資) |
| 調達の柔軟性 | 必要な分だけ翌年度以降も調整しやすい | 一度導入すると設備規模の変更は難しい |
| 制度変更リスク | 改訂内容によって影響を受ける可能性(時間一致等は2026年8月時点で提案段階) | 証書の利用要件変更の影響は比較的受けにくい(物理的実績が残る。環境価値の帰属・計量記録の確保が前提) |
| コストの方向性 | 区分・需給によって変動。業界試算では中長期的な上昇可能性も指摘(本稿参照) | 導入後は購入電力量の削減によるコスト削減効果が見込める |
| 適用できる条件 | 物理的な制約は受けにくい(調達経路・品質要件等の確認は必要) | 屋根・敷地の面積や耐荷重、賃貸物件か否か等の制約あり |
自家消費型太陽光発電の投資規模・回収年数の試算方法については、自家消費型太陽光発電の「投資回収年数」は、どのように試算したら良いのか?で解説していますので、具体的な検討に進む際はあわせてご参照ください。
この話を社内でどう整理するか
社内で検討を進める場面を想定すると、次のような整理が有効です。
「証書購入だけに頼った脱炭素対応は、国際ルール改訂によって今後見直しを迫られるリスクがある。一方、自家消費型太陽光発電への投資は、証書の利用要件の変更による影響を比較的受けにくく、かつ電気代削減という直接的なコストメリットも見込める」——この2点をセットで押さえておくことが、判断の土台になります。
逆に、証書購入だけで脱炭素対応を進めている場合、現行ルール上の根拠は示せても、「将来も同じ方法が認められるのか」という問いには断定的な根拠を示せない、という制度変更リスクを抱えることになります。この論点を業者から一切説明されていない場合は、検討の途中で前提が崩れる可能性があります。
検討時に最低限整理しておきたい項目は次の5点です。
- 現在の証書依存量・年間コスト:自社が現在どの程度の非化石証書を購入し、年間いくら支払っているか
- 制度変更シナリオ:本稿で解説したGHGプロトコル改訂・高度化法の目標引き上げ等、証書コストに影響し得る制度変更の一覧
- 代替案(自家消費等)の概要:導入候補となる設備規模・概算投資額・投資回収年数の目安(試算方法はこちら)
- 証書購入を続けた場合との比較:現状維持(証書購入継続)と設備投資(自家消費)を、初期費用・年間コスト・制度リスクの3軸で並べた比較
- 意思決定の期限:「いつまでに検討・着手すれば、制度変更の影響が及ぶ前に対応できるか」の目安
この5点を整理した資料であれば、「証書だけでOKか」という問いに対して、感覚的な回答ではなく、自社の数字に基づいた回答ができる状態になります。
検討スケジュールをどう組むか
GHGプロトコルの改訂は、ISOとの統合企業基準について2028年第4四半期の公表が予定されています。一方、自家消費型太陽光発電の導入は、発注から設置完了まで一般的に3〜6か月程度かかるとされます(材料調達に約4か月、着工から完了まで1〜1.5か月が目安。案件規模や調達状況により工程が並行するため、全体では3〜6か月程度が目安です)。これに加えて現地調査・設計・電力会社との系統連系協議、社内検討の期間が必要です。
まだ先の話と捉えず、改訂の全体像が固まる前から検討を始めることをおすすめします。証書市場の需給がひっ迫してから慌てて自家消費を検討するよりも、早い段階で「減らす」側の対策に着手しておく方が、選択肢の幅も広く持てます。
よくある質問(FAQ)
Q. 非化石証書を購入すること自体が無駄になるということですか?
A. そういうことではありません。証書購入は、現行ルールでは環境価値を調達する有効な手段の一つですし、改訂後も利用自体が直ちに否定されると決まったわけではありません。ただし、証書だけに依存した対応は、今回のような制度変更の影響を受けやすいため、自家消費等の「自社でコントロールできる対策」と組み合わせることが望ましいという趣旨です。
Q. GHGプロトコルの改訂は日本企業にも本当に影響しますか?
A. GHGプロトコルは多くの国際的な開示制度・イニシアチブ(SBT、RE100等)が参照する基準であるため、これらに取り組んでいる、または取引先から開示を求められている企業には影響が及ぶ可能性があります。ただし、日本国内の具体的な制度(省エネ法報告等)への反映方法は2026年8月時点で確定していません。
Q. アワリーマッチング(時間一致)はいつから義務になりますか?
A. 2026年8月時点では、義務化の時期も適用範囲も確定していません。GHGプロトコルの改訂協議で提案されている段階であり、段階的な導入や小規模組織の免除といった配慮もあわせて議論されています。ただし、確定を待ってから対応を考え始めると準備期間が足りなくなるおそれがあるため、方向性を前提に「まず減らす・つくる」側の検討を先に進めておくことをおすすめします。
Q. 自家消費型太陽光発電を導入すれば証書は一切不要になりますか?
A. 自家消費でまかなえる電力量には限りがあるため、多くの場合、証書や外部からの再エネ調達との組み合わせが現実的です。まずは自家消費で購入電力量を減らし、残りの部分をどう埋めるかを検討する、という順序が重要です。
まとめ
- 非化石証書などの環境価値の購入は、恒電社の考える脱炭素4段階の「第4段階(最後の調整弁)」。最初の一手にすると制度・価格の両リスクを正面から受ける
- GHGプロトコルのスコープ2算定ルールは改訂が進んでおり、発電と使用の時間を一致させる「アワリーマッチング」と供給可能な地域からの調達(デリバラビリティ)が提案されている。FIT由来証書の利用制約をめぐる報道もあるが、いずれも2026年8月時点では検討段階。2026年7月にはISOとの基準統合と新日程(統合企業基準の公表は2028年第4四半期予定)も発表された
- FIT非化石証書の約定最高価格は2023年8月の0.4円/kWhから2025年5月には4.00円/kWhへ上昇(加重平均でも約1.6〜1.7倍)。直近ではFITの加重平均が低下する一方、非FITは上限価格での全量約定が報告されるなど、区分・指標により動きが分かれている
- 価格上昇の背景には、高度化法の目標引き上げ・GX-ETS本格稼働等による需要増と、FIT電源の新規認定減少・大手電力の売り控え等による供給の伸び悩みという需給構造がある
- 証書購入だけに頼った脱炭素対応は、国際ルールという自社でコントロールできない要因に左右されるうえ、既設電源由来の証書を短期的に買うだけでは「新しい再エネを増やす効果(追加性)」を示しにくい場合がある
- 恒電社は「証書を買う前に、まず使う電気・購入する電気を減らす」ことを優先する考え方をお伝えしている(証書購入の初期投資不要・柔軟性というメリットも踏まえた使い分けが実務的)
- 自家消費型太陽光発電は、証書の利用要件変更の影響を比較的受けにくい対策であり、同時に電気代削減というコストメリットも見込める
- 「現在の証書依存量・年間コスト」「制度変更シナリオ」「代替案の投資回収年数」「両者の比較」「意思決定の期限」の5点を整理しておくと判断しやすい
恒電社は、自家消費型太陽光発電のEPC(設計・調達・施工)・O&M、省エネのご提案、導入に伴う申請・補助金対応を行っています。外部の再エネ調達や環境価値の活用については、要点を整理したうえで専門のパートナーへおつなぎします。証書購入と自家消費のバランスをどう考えるべきか迷われている企業様は、検討の初期段階でお気軽にご相談ください。
出典・参考資料
本稿の制度・数値データは以下を参照しています。
- GHG Protocol公式ブログ「Upcoming Scope 2 Public Consultation: Overview of Revisions」「Scope 2 Standard Advances: ISB Approves Consultation」「Upcoming Scope 2 Public Consultation: Hourly Matching and Deliverability」(2025年10月14日)※改定スケジュールは当初計画のもの
- GHG Protocol「GHG Protocol Announces Key Standard Development Updates」および「同FAQ」(2026年7月29日・ISOとの基準統合と新日程の発表)
- デジタルグリッド株式会社様「再エネ調達の最新動向」RE-Usersサミット2025発表資料(2025年6月10日・自然エネルギー財団イベントページ掲載PDF)
- 国際連合「24/7 Carbon-Free Energy Compact」
- 自然エネルギー財団の報告「RE100が技術要件を改定、運転開始15年の制限を追加」(2022年・renewable-ei.org掲載)
- 日経GX「GHGプロトコル、FIT非化石証書の活用に上限 スコープ2改定案」
- 自然エネルギー財団「GHGプロトコル改定へ、注目のスコープ2の論点まとまる」
- JEPX(日本卸電力取引所)「非化石価値取引 市場情報」
- 非化石証書の価格推移分析:EGマーケティング「非化石証書の価格動向と今後の見通し」、ブルードットグリーン「非化石証書とは?取引市場の最新動向」
- 需給構造の分析:ENERGY ADVISOR「非化石証書の価格推移と需給バランス」(出典元:資源エネルギー庁 第109回制度検討作業部会 資料3「非化石価値取引について」2025年12月12日)、ENERGY ADVISOR「エネルギー供給構造高度化法とは?」
- 2025年度第4回オークション(2026年5月実施)の結果分析:アワリーマッチング推進協議会「JEPX非化石価値市場、非FIT証書が上限価格1.3円で全量約定」(2026年5月26日付・note掲載)
- 環境省「CFP表示ガイドの作成に向けて 国際的なグリーンウォッシュ規制等の動向」(2024年10月25日公表資料・env.go.jp掲載)
- 需給バランス・価格予想の試算:デジタルグリッド株式会社「RE-Usersサミット2025 〜証書・クレジットの最新動向〜」(2025年6月10日発表資料。各種公開情報を基に同社が作成した試算値を引用)
この記事を書いた人
恒石陣汰(ツネイシ ジンタ)

